「公正的戦闘規範」

 2018-03-31
藤井太洋の初短編集として昨年8月に発売された、『公正的戦闘規範』。
ここには、早川書房で発表されてきた4つの短編に書下ろしを加えた5作品、順に、「コラボレーション」「常夏の夜」「公正的戦闘規範」「第二内戦」「軌道の環」が収録されています。

技術やシステムの進化・変化が人の世にもたらすものと、それによって変わっていく人の在り方というようなものが、全ての作品に通底するテーマになっているようで、それはこれまで読んできた彼の長編作品にも共通するような気がしますから、つまるところ、作家としての藤井太洋が基本的にテーマとしていることが、そこにあるのかもしれません。
小川一水が同じようなテーマの作品を続けて発表していた時期もありましたし、SF的には定番の、一般的な題材ではあります。
が、巻末の解説で大野万紀が書いているように、藤井太洋は、かなりヘヴィーでディストピア的な状況が、科学技術と人の在り方の変容により前向きな未来を迎える可能性を描くことに、その特徴があるのでしょう。
だから、洒落にならない状況が描かれていたとしても、読後感はかなり爽やかだったりするわけです。

藤井太洋はソフトウェア会社への勤務経験があるので、例えば「コラボレーション」にはソースコードがそのまま書かれている部分があったり、他の作品にも同じような視点からの描写があって、その部分については、正直分からないで読み飛ばしたりもしているのですけれども、物語を楽しむという点で、それでも全く問題は無い、と感じました。
もちろん、その辺りまで深く理解できれば、本作の事を更に楽しめるのでしょうけれど、まぁ、そこはそれ。

この5編の中で一番気に入ったのはタイトルにもなっている「公正的戦闘規範」で、次いで「常夏の夜」、残りは同格3位ということになるでしょうか。
「第二内線」の、アメリカに近い将来起こり得るかもしれない分裂を描いているところは面白かったので、強いて1つを選ぶならばそれが第3位です。
といっても、この順位付けはそれぞれが非常にハイレベルなところでの話ですので、基本、どの作品を読んでも大いに楽しめることに違いはありません。

知的刺激もあり、物語としての面白さもあり、これは、お勧めの短編集です。


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春ですね

 2018-03-27
東京の桜も満開宣言が出て、今日用事があって乗っていたJR総武線の車窓から見た千駄ヶ谷駅から新宿御苑に向かう道は、花見に行くのであろう人達でいっぱいになっていました。
私自身はどこかに花見に行ったりしている時間もないのですが、でも、まぁ、良いですよね、やっぱり、花見って。

で、その道すがらで見つけた、春を告げるものが下の写真。
そう、土筆(つくし)です。

私がまだ小さくて、実家の近くの開発もまだそんなに進んでいなかった頃は、この時期によく土筆を摘みに行ったりしたなぁと思い出しつつ、写真を撮ってみました。
で、そんな私の横を通り過ぎて行った若夫婦っぽい2人連れの会話が……
「ねぇ、土筆って、タンポポだっけ?」
「いや、土筆は土筆だろう?」
というもの。

……うーん、タンポポと思う気持ちは多少理解できなくもないけれども、あくまで「多少」であって、共感はしなかった、かなぁ。
ちなみに土筆はスギナの胞子茎なので、「土筆は土筆」というのも間違いではありませんが、タンポポと対比するのであれば、「土筆はスギナ」というのが正しいのかも?

何を偉そうに突っ込みを入れているんだ、と言われそうですね。
実際、私は私でいろいろと、とんでもない勘違いをしていたりしたことがこれまでにあったわけですし。
森羅万象全てを知ることなどは神ならぬ身にはできないのですから、勘違いは人間である以上は不可避と考えれば、むやみな突っ込みは無粋なだけかも。

ともあれ、要は、こういうちょっとしたところで春を感じた1日だったと、つまりそういう話がしたかっただけなのです。

春は気持ちのいい季節で、楽しくなってきますよね。
……花粉さえ飛ばなければ、ですけれど。

2018年、春

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カタルーニャとヘント~ウェベルヘム

 2018-03-26
3月から4月はベルギーやフランス北部での春のクラシックや、スペインなどでの1週間程度のステージレースの季節。
そこで、DAZN でボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャと、ヘント~ウェベルヘムを見ました。

カタルーニャは、モヴィスターがエース格の選手を並べて勝利を狙って参加してきて、そして狙いたがわずしっかりとした走りとチームワークを見せて、昨年のディフェンディングチャンピオンであるアレハンドロ・バルベルデを2年連続の総合優勝&山岳賞に導いていました。
そしてナイロ・キンタナも総合2位に入るなど、モヴィスターにとっては完璧なレースになったのではないでしょうか。
それにしても、昨年に大きな落車をしてかなりの怪我をしたバルベルデが、今期になって完璧な復活をしたのは、安心させられました。
正直、年齢も考えればそのまま引退してもおかしくないかもしれない、とまで私は思っていたので。


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ヘント~ウェベルヘムは、フランドル・クラシックで連勝街道を驀進している(というか、他のチームに勝たせていない)クイックステップ・フロアーズが、いよいよ北のクラシックの最大イベントであるロンド・ファン・フラーンデレン(ツール・ド・フランドル)を翌週に控え、どんな走りを見せてくれるか、そして他チームがどう出てくるか、が非常に興味を惹かれたレース。
そのクイックステップ・フロアーズは、20数名に絞られた先頭集団に複数のタイプの選手を4名残しているという、どうとでも勝てる体制を確立。
それ以外のチームがそこにどのように対応するか、対応できないか、という状態が続いているうちに、残り距離はどんどん縮まって行きます。
終盤、スプリント系以外の選手がアタックをかけるなどの駆け引きもありつつ突入した集団スプリントで、クイックステップ・フロアーズのエリア・ヴィヴィアーニは前をふさがれてスタートが少し遅れ、その隙をついて反対側からかけたボーラ・アルゴンのペテル・サガンに勝利をかっさらわれてしまいました。
チームメートに完璧なおぜん立てをしてもらいながら、自分の位置取りの悪さで勝利を獲れなかったヴィヴィアーニがゴール後に座り込んでむせび泣いている姿が、実に印象的な、今年のヘント~ウェベルヘムとなりました。

さて、来週のロンドは、これを受けてどうなるかな……?


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「100億人のヨリコさん」

 2018-03-24
森見登美彦が得意としているような、いわゆるヘタレ学生もの.。
今回はそのジャンルに挑戦して書いてきたのかな、と思わせる序盤の流れから、七不思議的な怪談を科学で解き明かそうというミステリーになってきたなと思わせて後に、更にとんでもない方向に舵を切ってくるのが、今回紹介する似鳥鶏の「100億人のヨリコさん」です。

「サダコ。カヤコ。そして――!!……え、ヨリコさん?エンタメ史上に残る凶悪ヒロイン、大量出現!?圧倒的な熱量で奇想が暴走する、傑作パニックサスペンス!」


と、腰巻の帯には煽り文句が印刷されていますが、個人的に、本作のジャンルはSFだと思います。

こんなことを書くと、SF原理主義者な方との、「SFの定義とは」という、古来より様々な立場が表明されていつつも結論が出ていない(というか、出るわけもない)不毛な議論に巻き込まれてしまうかもしれないのですけれども……
それでも、ここは断言させていただきましょう、似鳥鶏の 『100億人のヨリコさん』 は、SFです!

いつもの似鳥作品のように、地の文は時に冗長な語り口であり、時折挿入されてくる(まるで論文のような)用語脚注というスタイルも、今回も健在です。
本作においては、その軽やかなノリの良さが、序盤に見られるユーモア小説的雰囲気を生んでいます。
ですが、本作を読み進めていくと、やがて段々とバッドトリップのような酩酊感と、背筋にゾッとくるようなテイストを醸し出すようになってきて、序盤の感じとのギャップがかなり大きい、振れ幅の広い1作だと言えるでしょう。
この急展開っぷりは、読者を引き付けるのに非常に効果的だと思います。
これを計算してやっていても凄いと思うのですが、本作については、どうやらそこまで緻密に計算しつくして書かれているというよりも、いわゆる「物語が降りてきた」状態で書いた、ということであるらしいフシが見えます。

その結果が、これだけの面白い作品か……

ネタバレは一切したくないタイプの作品なので、これ以上具体的な言及は避けておきますけれど、これは、かなりのお薦め作品だと言えます。
ただし、人によっては、ちょっとしたホラー小説を読み終えたような読後感になるかもしれません。
なので、そういうのが苦手である人にとっては、本作を読んでみるかそれとも止めておくかは、熟慮の末に決めた方がいいかもしれませんね。


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FRANKIE GOES TO HOLLYWOOD

 2018-03-22
FRANKIE GOES TO HOLLYWOOD といえば、ほぼ必ずといって良い程、音楽プロデューサの トレヴァー・ホーン(Trevor Charles Horn)の名前が出てきて、彼の功績ばかりが語られる傾向にあります。
もちろん、トレヴァー・ホーンがプロデューサーとして非常に優れた存在であったことと、FGTH の成功に(良くも悪くも)影響が大であったことは否定できません。
ただ、それを踏まえたうえで、やはり彼ら自身の作る曲の魅力があればこそ、それが基礎にあるからこその、「Relax」 や 「Welcome to the pleasuredome」、「Two Tribes」 のヒットだったんじゃないかなと、そう私は思うわけです。

そんなことを書いている私が初めて FGTH に出会ったのは、デビューシングルの 「Relax」 のPVで、「何じゃ、こりゃ、なんだか凄いな……っ!!!!」 というのが、その時の率直な感想でした。
何だかパワフルで、派手で、格好いい。
そりゃあもう、一発で気に入ってしまい、FRANKIE GOES TO HOLLYWOOD という名前は、私の脳に深く刻み込まれたのです。

ちなみに、何故このバンドはこんな名前なのか、ですが……まぁ、これはわりと有名なことですので、敢えてここでわざわざ書かずともいいでしょう。
ネット検索でも、簡単に答えがヒットすると思います。
例えば、フランク・シナトラ と絡めて検索すると、なおのこと答えにたどり着きやすいでしょう。

そんな FGTH ですが、その後、「Two Tribes」、「Welome to the plesuredome」 という2曲がMTV番組等で流れた後、あまり名前を聞かなくなったなぁと思って数年。
大学に入ってバイトをしたことで財力がある程度できた私は、かつて色々と聴き倒していた80年代の音楽のCDを買い漁りだしました。
で、そこで、FGTH がわずか2枚のアルバムだけを出して、解散していることを知ったのです。

結局、あまりに早く成功してしまった、それも、自分達本来の音楽そのものではなく、トレヴァー・ホーンと彼が率いるZTTというレーベルによって加工された姿での成功が、却ってバンドの寿命を短くしたというのが、一般的な見方になっているようです。
要は、「こんなのは、自分達の音楽ではない!」ということですね。
思うように自らの音楽を表現できないのであれば、そこから飛び出すしかない、契約が縛るのであれば、バンド自体を解散させるしかない。
トレヴァーの影響が少ないと言われる 2nd 『liverpool』 の出来の良さを思うにつれ、そこで解散してしまったことが残念になるのですが、そういう時代の徒花のような存在って、わりと珍しくなかったりするんですよね……

ひとまず今回は最後に、上記の3曲と、2nd の 2曲目でシングルカットされた 「rage hard」 を貼っておきます。
個人的には、FGTH の曲の中で1番好きかもしれない1曲です。














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