「筺底のエルピス5 -迷い子たちの一歩-」

 2017-09-02
第4巻の衝撃的な展開とラストに打ちのめされた読者を大量生産したのが、オキシタケヒコの 『筺底のエルピス』。
その作品の、1年2ヶ月振りの続巻である、第5巻を読了。

まさしく待望の、という表現が適切な1冊なわけですけれども……
4巻ラストの、あの凄惨さ。
慟哭。
喉の奥から絞り出され魂を締め付けるような絶望から、どのように物語が続くのか、不安が無かったわけではありません。

あの悲惨さを更に突き詰められるのも厳しいし、あれだけの展開で描かれたことを忘れたかのように描かれても、それはそれで物足りない。
それでも、あの苛烈さを体験したヒロインには、それが例えひと時のものに過ぎないとしても、何らかの救いや安らぎがあってほしい。
そんな風に思って読んだ第5巻。
480ページ超という分厚さでありつつ、冗長なところは一切無い、密度の高い話が今回も繰り広げられていました。

これで、内容的には第4章の前半部分だというのですが、「上げて、下げる」がドラマ構成の定番だとすれば、次の第6巻で、またキツい展開がやってきたりはしないかと、それが心配にもなってきます。
実際、色々と先が不安になるような要素、これは今後の仕込みの伏線なんじゃないかという不穏な一文とか、何ヶ所か、あったんですよね。

作品タイトルからすれば、物語の完結の暁には、そこに希望がある、と思いたい。
思って大丈夫、ですよね?
間違いなく傑作と呼ばれる作品となると思われる本作ですので、未読の人は、今からでも手に取ってみるべきです、絶対に。



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「UFOはもう来ない」

 2017-08-26
UFOや宇宙人の目撃談、UFOに攫われてのアブダクション、更にはその母星や基地に連れていかれたり宇宙人によって妊娠させられたり、そういった妄想もしくは詐欺なんだろうなという眉唾な話。
それ等が、もしも本当に地球に来ている宇宙人が存在することから影響を受けて発生したものだとしたら、というような発想から構想が始まったのかな、と思われる、山本弘の 『UFOはもう来ない』 を読みました。

自分達の存在が地球人に対して与えている文化的汚染を懸念している地球を監視していた異星の知的生命体スターファインダーの1人、「最終シークエンス」発動の権限を持つペイルブルーが乗った小型宇宙船が衛星軌道上のデブリとの接触で推進機関に異常をきたし、京都山科の山中に不時着。
機体は被害の拡大を避けようと海上に移動してパイロットと共に爆散してしまいます。
残されたペイルブルーはその地に留まって仲間が月の裏側に設けられた基地から救助に到着するのを待とうとするのですが、不時着するUFOを追ってきた小学生3人組にその身を確保されるという事態に。
そこに更に、民放系のB級情報バラエティーのオカルトネタ担当製作会社の社長と、祖父の遺志を継ぐ美人UFO研究家、そして宇宙エネルギーとの交信を謳う新興宗教の教祖である詐欺師等が絡んでくる、というような物語です。

敢えて簡潔に言ってしまえば本作のジャンルは「ファーストコンタクトテーマのSF」ということになります。
けれども、その言葉から普通に想像するようなSFとはちょっとテイストが違っているのは、全体的にトンデモ本やトンデモ説を笑って楽しもう、というようなノリがちょこちょこと頭を覗かせているからかも。
さすがは と学会 の会長であった山本弘というべきか、時にはUFOや宇宙人に関するトンデモ話についてもがっつりとスペースを割いて詳しく説明しているので、その所為で本が余計に厚くなってしまっている側面もありそうです。
が、本作の場合はそこもまた読みどころの1つとも言える様な気がするので、これについては特に問題は無いと個人的には思っています。

更に本作の良いところは、敢えて冗談のような形態にしてきたスターファインダーの進化の過程や生態、宗教観などの文明についてしっかりとした設定を作り上げているというところ(巻末に、それが掲載されています)でしょう。
そういうところの作り込みをしっかりしているからこそ、作中で描かれている無いようにある程度の説得力が出てくるわけですね。

科学的な知識とかSFへの興味や愛が無くても気軽に読めるような物語ではあるのですが、別の意味で色々と「濃い」ので、そこが受け入れられないという人もいそうな、そんな1冊でした。
個人的には、こういうの、嫌いじゃないですよ。



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「恋するタイムマシン 穂瑞沙羅華の課外活動」

 2017-08-19
ハルキ文庫から出ている機本伸司の『恋するタイムマシン』は、「穂瑞沙羅華の課外活動」シリーズの4冊目。
これを、「穂瑞沙羅華の登場してくる小説」という条件に変えてカウントするならば、デビュー作の『神様のパズル』も含めて5冊目。
スピンオフ的作品の『神様のパラドックス』は、穂瑞沙羅華が直接的に活躍する話では無いですが、これも含めると6冊目、ということになります。

キャラクター造形の偏り……というか、作者の好みなのかもしれませんけれども、これはちょっと実際にはいないだろうというようなタイプ、感情のあまり感じられない会話文というような、私が機本作品に常々感じている違和感というか欠点は、今回も同じ。
まぁ、それもこのシリーズに限って言えば、穂瑞沙羅華というヒロインがそもそもそういう風になってしかるべき生まれ育ちを持っているキャラなので、そこにあまり違和感を感じないでいられるのですけれど。

さて、今回の『恋するタイムマシン』ですけれども、扱っている題材は、まぁ、タイトルにそのまま表れていますね。
量子コンピュータの開発者である天才女子高生の穂瑞沙羅華が営むコンサルタント業への依頼は、両備という若き研究者がダークマターの研究を隠れ蓑にして進めようとしている、ワームホールを使ったタイムマシン開発を、何とかして断念させてほしいというもの。
そこに、理論物理学の天才でありながら、いやむしろ、早熟の天才であるが故に、人の心の機微が分からない沙羅華が、自分では理解できない「愛」というものについて頭をひねる展開を加えて、いつも彼女に振り回されている主人公の綿貫との関係にも、少しの進捗が出てくるという内容です。
これまでシリーズをずっと読んできた身には、なかなか嬉しいというか、楽しめる作品になっていたと思います。

正直、文系人間な私には、専門的な記述部分は、10の内の半分くらいしか理解できていないのですが、そこは雰囲気で読み流せば問題ありません。
このシリーズは今年5月に最新刊にして最終巻が発売されているので、それも、早めに読み始めるとしましょう。



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「モノクロの君に恋をする」

 2017-08-12
都内の名門私立大学を舞台に、世間からのはぐれ者的な、ちょっと、いや、かなり個性的なメンバーが集まったマンガ研究会に入会することになった新入大学生の小川卓巳を主人公にした作品が、坂上秋成の「モノクロの君に恋をする」。
これはつまり、周囲に馴染めなかった過去を持つ男女が織り成す青春小説、ボーイ・ミーツ・ガールな青春小説であり、要するに私の大好物、ということです。

この作者の作品を読むのは今回が初めてですが、なかなかいい感じに青い春を描けているのではないでしょうか。
こういう作品の場合は、いかにして読者に主人公への共感を抱いてもらうかが1つのカギになる、と私は思うのですけれども、その点では、まずまず上手いことできていた、と言ってもいいかもしれません。
ただしこれは、私自身も大学時代に漫研に所属していて(ここまで変人揃いではなかったですけれど)、それなりに大学生活をエンジョイしていたという経験を持っているし、何よりアニメだのマンガだのが好きだということもあるから、その下地があるが故にそう感じることができているのかもしれません。
なので、そういう経験が無い人までがそうなのかは、保証できません。

あとは、アレですね。
最近こういう題材を扱った作品で散見させられるのが、そのストーリーだったり作品性だったりに特に言及することなく、他のマンガ作品のネタを作中に堕してくるというのは、ちょっとまずいんじゃないかな、と思います。
ここで採り上げられている諸作品について、私はそこそこ知識を持っていますから、「ああ、これはそういうことね」と納得することもできますけれど、普段そこまでマンガに親しんでない人とか、リアルタイムではない過去の「名作」にまで手を出して楽しもうというところまで踏み込んでいない人とか、そういう人に対して、もうちょっと親切でもいいかな、と。

まぁ、でも、面白ければそれでOK、なんですけどね、突き詰めてしまえば。
そう考えれば、これはこれでいいとも言えますが、どうせなら、もっと一般への訴求力も強くすればいいのにな、と思うんですよね……。
せっかく基本的な面白さがあるのですから。


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「はるか遠く、彼方の君へ」

 2017-08-05
デビュー作の 『いまはむかし 竹取異聞』 は結構良かったな、という記憶から、ならばこれも、いつかタイミングを見て読んでやろうと思って積読の中に入れていたのが、安澄加奈の 『はるか遠く、彼方の君へ』。

現代の高校生3人が源平合戦の時代にタイムスリップして源義経や静御前と行動を共にする、という粗筋は、言ってしまえば結構ありふれたものです。
そこに独創性や新鮮さを感じることは、正直、できません。

そうであるならば、どういう料理法、味付けをそこに施してくるかが作者の個性を出す為には重要になってくるところですよね。
で、ついついそんなことを思いながら読み始めたら、どうにもそれが気になって仕方が無いという状態になってしまって、本作を読んでいる間、終始、そこがどうなっているのかと、そればかり考えて読んでいたような気がします。
つまりは作者にとっては、あまり嬉しくない読者だということなのかもしれません。
私としても、最初に余計な雑念が入ったことで、物語にそこまで入り込むことができなかったという点で、ちょっと残念なことでした。

それにしても、前作を読んだ時にも思ったのですが、安澄加奈という人は、おそらく荻原規子の一連の作品のファンなのでしょう。
読んでいて、キャラクター設定や配置、物語の持って行き方とか、そういうところに、萩原作品の影響が読み取れるような感じがするんですよね。
それが悪いということでは別になくて、誰かの影響下にあるというのは、いつまでもそこから脱することができないでいると単なる亜流で終わってしまう恐れも出るとはいえ、基本的には、若い作家の在り方としては、普通に良くあることです。
完コピのようなことをやられてはさすがにアレですが、安澄加奈の場合、デビュー作も本作も、さすがにそこまでのことはありませんから、問題無し、と思います。

基本的に善人ばかりが出てくるようなところは、ちょっとアレではありますが、児童文学の延長上にある作品だと思えば、これはこれで、特にアレコレ言うようなことでもありません。
恋愛要素の入れ方も程良かったですし、文庫で540ページほどというボリュームながら、サクッと、すらっと読み切れたのも、いいですね。
軽めの歴史ファンタジーとして、まずまず面白く読ませてもらいました。



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