うーん……

 2012-07-08
7月7日に公開されたばかりの、杉井ギサブロー監督作品、「グスコーブドリの伝記」を観てきました。

毎年受験中の某国家試験の本番直前期ですし、映画なんて観に行っている場合ではないだろうというのもあったのですけれども、何せ私は幼少のころからの宮沢賢治ファンであり、同監督が手掛けた1985年公開の「銀河鉄道の夜」もとても大好きで、同作と今回の「グスコーブドリの伝記」でキャラクター原案を担当した ますむら・ひろし の漫画も好きです。
更に、賢治の作品の中で一番好きなのが、実は「グスコーブドリの伝記」とあって、確かにタイミング的にはかなり厳しいものの、これを大スクリーンで観ないという手は無いだろうと、思い切って映画館まで足を運んだ次第。

で、実際に作品を観ての感想なのですが……
うーん。
ストーリーや演出などについて思い切りネタバレをした内容になっているので、それでもかまわないという人のみ、「続きを読む」をクリックして、後半をお読みください。

グスコーブドリの伝記
映画公式サイトは、こちらから。

本作について端的にコメントするならば、それは、賢治にも監督にもその他のスタッフにも申し訳ないながら、「微妙な出来」という一言になってしまうと思います。

「グスコーブドリの伝記」の原作をどう料理し、脚本化していくかについて、監督が悩み苦しんだであろうことは想像できます。
作品の性格上、下手にやると説教臭くなるだけですし。
ラストにおけるブドリの自己犠牲的な行動をお涙ちょうだい的に礼賛する方針にすれば、実は結構簡単に脚本ができそうな気もしますし、いくらでも盛り上るでしょう。
「グスコーブドリの伝記」という原作は、実はやりようによってはいくらでもそちらの方向に舵が切れるストーリーだと思うのですが、今回、杉井ギサブロー監督はその道は選ばなかった。
単に自己犠牲の美しさといったものを強調するような視点でブドリの行動を描くことをせず、様々な人に生かされてきたことを実感している彼が、自分が体験したような悲しいことが他の誰かの身にも降りかかるようなことが2度と起きないようにとの想いから、自分にとってのできる限りのことをしようとした、その気持ちの表れとしての行動が、結果としてそういう形をとることになったという描き方を、本作ではしています。
感動の安売りをする作品になっていることだけは勘弁してくれと思っていましたから、そのことは、評価しています。

ただ、現実世界と幻想四次の世界との交錯をボーダレスな描写で盛り込んだのは、失敗かもしれません。
とあるインタビューで監督が、賢治の持つ独特の感受性、幻想性を映像作品にしたいと思ったというような内容の発言をしていましたし、そうしたい気持ちは、賢治ファンの一人として私も分からなくはないのですが……

まずプラス要素として、寒波、旱魃、人さらいと児童労働、飢饉と貧困などなど、非常に重い要素が多い作品ですが、こういった方法を採ることが、そういった部分で必要以上に生々しくなることを緩和していた面はあるのではないかと感じました。
色々と示唆されているところや、「銀河鉄道の夜」の話などから考えても、幻想四次の世界は即ち死後の世界であり、つまりブドリの妹ネリは両親が去った後、兄妹2人だけが残されて森の中の家で生活をしていた中で命を落としてしまっていた、と解釈するのが妥当なのかもしれません。
そこは、ネリが生きていて、やがてブドリとの再会も果たす原作とは、大きく変えられたところですね。
この改変は、良かったと思います。
ただ、マイナス面としては、幻想四次のシーンが物語の要所に挿入されることが、この映画の物語をとりとめのない曖昧なものにしてしまったことは否定できないかな、ということがあります。
そういう混沌というか、現実と幻想とが混然一体となったものを作ろうとしたのは先のインタビューで読み取れるものの、ラストシーンにおいてカルボナード火山が何故噴火したのかを敢えてぼかしたのも含め、物語にもやもやとした消化不良さを残してしまったように感じられるのです。

私の隣に座っていた女子高生3人組が映画終了後に、「なんか、難しい映画だった」と言っていたのですが、それが全て、かなぁ。
精神性を求める作品を作ること自体は悪いとは言いませんし、そういうアプローチは個人的には好きなのですけれど、エンドロールが始まっても、「え、これで終わり?」と思わせる作りはいかがなものでしょう。
ラストシーンがラストシーンらしくないというか、ブドリがカルボナド火山を意図的に噴火させる為に1人で島に残るという展開自体を無くしてしまった弊害で、映画を観た、物語を楽しんだ、というカタルシスや充実が感じられないまま劇場を出ることになっていたのは、冒頭にも書いたように、ちょっと微妙な後味でした。

とはいえ、この作品、絵の綺麗さと、小松亮太による音楽の良さは特筆すべきもの。
その映像と音楽を味わうということだけでも、大きなスクリーンとしっかりした音響の整った映画館に観に行くだけの価値は、十分にあるかも。
不満もある出来栄えでしたけれども、それでも Blu-ray が出たら、買おうかな、やっぱり。
小栗旬らの演技がどうだったかは……まぁ、言わぬが花、かな。

思えば、「銀河鉄道の夜」も、ビジュアルと音楽(こちらは細野晴臣が担当)に優れた作品でした。
せっかくなので、最後に、その「銀河鉄道の夜」のDVDと、1996年にTVスペシャルとして放送された賢治の半生を描く河森正治監督の「イーハトーヴ幻想 ~KEIJIの春」の両作品につき、紹介の意味でアフィリエイトを貼っておきます(こちらも、上々颱風の主題歌「AVE MARIA」と挿入歌「雨ニモ負ケズ」が絶品でした)。
どちらも傑作ですので、機会があれば、是非一度、ご覧になってみて下さい。

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