「童話迷宮」 釣巻 和

 2009-06-10
新潮社のバンチコミックスから出た釣巻和の「童話迷宮」上下巻を購入しました。
コミックスとしては初コミックスの「くおんの森」第1巻(徳間書店 Ryuコミックス)に次ぐ2作品目ということになるのですが、作品発表の時期は、どうやらこちらの方が前な模様。
整理されたシャープな線というのではなくて画面密度が高くてちょっと古臭い感じの、決して流行りのラインではないかもしれないものの凄く味があるタッチは、かなり魅力的です。
決して一線級のメジャーにはなれないタイプのマンガ家かもしれませんが、どこでもいいからページを開いて見開きの画面を、その構成、線やベタのバランス等をパッと観るだけで、いや、表紙を観るだけでも、クリエイターとしての豊かな才能を感じさせられます。

そしてそのタッチで今回描き出されるのは、小川未明の童話にインスパイアされた連作短編。
これが、凄く良い!
シリーズ全15作はどれも、「童話」の名にふさわしく、本当に何気ない物語となっているのですが、そこは小川未明に捧げられた作品、どことなく浮世離れした、現実と背中合わせのような雰囲気が全編に漂っているのが、素晴らしい。
前述の絵柄がまた、この作品には凄くマッチしているんですよね。
惜しむらくは、カラーページが白黒の一色印刷になってしまっている為に、作者が作品に込めた本来的な狙い、その色彩効果が味わえないこと。
もちろん、作者の後書きにもある通り、カラー原稿を白黒にするにあたって担当編集や印刷所ほかの皆さんが、元のテイストをしっかりと再現するべくもの凄く注力されたのは、良く分かります。
そして、新人マンガ家の、セールスが出るかどうかも分からない作品でカラーページの再現をやってコミックスの価格を上げてしまうことのリスクも承知しています。
ここは、少しでも多くの読者の手元にこのコミックスが届くことを願って、涙を呑んで白黒印刷にすることで価格を抑えようという戦略は、正しいと思いますし、そういう意味では不満はありません。
微妙なグラデーションを再現しようと努力したのであろう成果は、しっかりと出ていますしね。
ただ、わがままを言わせてもらえれば、やっぱり初出がカラーのページは、フルカラー印刷で読みたかった、なぁ。

童話好き、児童文学好き、そしてもちろん小川未明好きにお薦めできる、佳作です。
上下巻それぞれの巻末に収録されたシリーズ外の読み切り短編もなかなか面白くて、これは、買って大正解でした。
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