FC2ブログ

「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」

 2020-03-21
百合SFアンソロジー『アステリズムに花束を』に収録されていた短編を長編化した、小川一水の『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』。
作者自ら「ガス惑星巨大ロケット漁業百合SF」と銘打った本作の、公式の粗筋は以下の通りです。

人類が宇宙へ広がってから6000年。辺境の巨大ガス惑星では、都市型宇宙船に住む周回者(サークス)たちが、大気を泳ぐ昏魚(ベッシュ)を捕えて暮らしていた。男女の夫婦者が漁をすると定められた社会で振られてばかりだった漁師のテラは、謎の家出少女ダイオードと出逢い、異例の女性ペアで強力な礎柱船(ピラーボート)に乗り組む。体格も性格も正反対のふたりは、誰も予想しなかった漁獲をあげることに――。日本SF大賞『天冥の標』作者が贈る、新たな宇宙の物語!


遠い未来、宇宙に広く生存域を拡大した人類社会の辺境、巨大ガス惑星の軌道上に氏族ごとに都市宇宙船を浮かべて生活するという社会が形成されている世界設定です。
そこで描かれるのは、その社会を支配する男尊女卑の思考・慣習に全力で立ち向かう2人の女性の物語。

こういう書き方をすると、ジェンダー論を大上段に振りかざしてきたりしている作品なのかと思われるかもしれません。
ですがそうではなくて、本作はどちらかというと、「百合SF」というお題に応える為に、主人公とヒロインの関係が百合であることに正当性を持たせるというか、理論武装をする為の手段としてそういう設定を導入しているという印象がある、かな?
それはそれで、真剣に社会的男女格差問題に取り組んでいる人達から反感を買いそうに感じられるかもしれません。
しかし、小川一水という作家にはもともと、その手の思想に対して反発するものがあったのではないでしょうか。
それは、彼のこれまでの著作に出てくる女性キャラの造形を考えれば分かります。
とはいえそれを作品内で直接的に主張したり露骨に思想的な描写をすることを避けて、あくまでエンタメ小説やSF小説の枠の中で穏やかにそれを訴えていたのが、今回はこういう形で出ているということなのではないかな、と思います。

だから、そういった問題に興味がある人も無い人も関係なく、純粋にエンターテインメントとしての小説を楽しみたい人、「ガス惑星」で「巨大ロケット」を使った「漁業」をする「SF」に興味のある人は、とにもかくにも本作を読んで、その面白さに浸ってほしいと思います。

『アステリズムに花束を』収録の短編版を長編にするに当たって、当然、物語だけでなく設定やキャラクターも膨らませているのですけれど、それがまた、いい感じになっています。
一応、これは単巻で終わる前提で書かれているようですが、ヒロインであるダイオードと氏族の関係の辺りでまだまだ膨らませる余地は大きく残っていそうですし、続編も期待したいところ。




タグ :
コメント












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバックURL:

http://pantarheibekkan.blog110.fc2.com/tb.php/2205-7a5e4745

≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫