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「錬金術師の密室」

 2020-03-07
刊行前に担当編集者がネットで行っている宣伝の文言をみて気になっていたのが、紺野天竜の『錬金術師の密室』。
最初に私が興味を感じた公式の粗筋を紹介してみましょう。

アスタルト王国軍務省錬金術対策室室長にして自らも錬金術師のテレサ・パラケルススと青年軍人エミリアは、水上蒸気都市トリスメギストスへ赴いた。大企業メルクリウス擁する錬金術師フェルディナント三世が不老不死を実現し、その神秘公開式が開かれるというのだ。だが式前夜、三世の死体が三重密室で発見され……世界最高の錬金術師はなぜ、いかにして死んだのか?鮮やかな論理が冴え渡るファンタジー×ミステリ長篇


ファンタジーとミステリーの融合、密室状態で発生した不可能犯罪といったものを描いた作品は先達がたくさんあります(例えばちょっと考えただけで、上遠野浩平の「戦地調停士」シリーズ等が思い出されます)。
そういう意味では設定にはそこまでの斬新さはありません。
けれども、どうやらきっちりとロジックを詰めたミステリーであるらしいこと、作者がそもそもミステリー好きであるらしいこともあり、これは何か光るものがありそうだぞ、と思ったのです。

結果から言って、その予感は正しかったです。
序盤を読んだ段階では、いかにもラノベにありそうなキャラクター設定やセリフ回し、会話が描かれるところで、ああ、まぁ、良くある感じのつくりだけれども、それだけにとりあえず手堅いといえば手堅い滑り出しだなと思っていたのですが……
そのベタなノリが、後半に行くにしたがって実に効果的に生きてくるのが良いですね。

ファンタジー世界でのミステリーは、現実世界ではあり得ないようなことでも、例えば「魔法でやったんだ」とか「精霊(モンスターでもいいですが)の存在が特定の物理現象を引き起こした結果として一見すると密室殺人という不可能犯罪が行われたかのような状況が生み出されたのだ」とか、そういうことにしてしまってある種の「逃げ」を打つこともできるかと思います。
それを踏まえたうえで、ミステリーファンの感想などを読んでみても、本作は、そこはかなりフェアに、序盤から作中で描写してきたヒントを丁寧に解釈していけば、ちゃんとロジカルに事件の真相を推察できるようになっているようです。
そこに否定的な意見もありますが、百人が百人とも同じ作品に同じ感想を抱くなんていう不自然なことが世の中に存在するわけが無いので、それはそういうものでしょう。
私としては、私の信頼するミステリー読みの人が本作のミステリーとしてのクオリティーを保証している感想を読んだので、そちらを信じますが、こういうのって、どちらが正しいというものではない部分が多いですからね。

ともあれ、私の感じている範囲では、本作はミステリーとしてアンフェアなことはしておらず、ジャンルのルールには忠実であると考えていい。
つまり、後出し設定での真相解明はしていない。
その点で、ミステリーファンにも納得できる仕上がりになっている。
加えて、これだけ面白いのですから、これはもう、なかなかに優れていると評してしまってもいいでしょう。
かなりのお勧め作品です。
続編への色気があるのを嫌う人もいるかもしれませんが……



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