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「叙述トリック短編集」

 2019-12-07
収録されている全編を叙述トリックものに限定するという趣向の、似鳥鶏の『叙述トリック短編集』。
昨年の9月に発売されて、石黒正数の表紙イラストにもちょっとした仕掛けが施されたことが話題になったりもした作品です。
例によって、発売後すぐに買ってはいたのですが読むのは随分と月日が経過したこの時期になってしまいました。

叙述トリックと言われてもピンと来ない人の為に、冒頭において似鳥鶏が説明しているところを引用すると、「「叙述トリックとは」、小説の文章そのものの書き方で読者を騙すタイプのトリック」であり、かつ、「叙述トリックは「作者が読者に対して仕掛けるトリック」という言われ方も」するものになります。
つまり、例えば作中に田中薫というキャラクターが登場したとして、それがいかにも男性であるような状況を重ねて誤読を誘引しておいて、実は文中の描写では男性とはどこにも書いておらず、実際には田中薫が女性であることが事件の重要なカギとなるというようなパターンですよね。
基本的に読者は作中の記述、特に地の文の記述は信用する(というか、そうしなければ小説において物語を語るということが成立しにくくなってしまいます)ものですから、それを逆手に取ったトリックなわけですけれども、それが故に、卑怯だとかズルイだとか言われてもしまいます。
で、本作は更にそれを逆手に取ったというか、だったら最初からこの作品は叙述トリックを使用していますよ、ということを宣言しておけば問題なかろうという、そういう方向で書かれた作品ということになるわけですね。

叙述トリック作品というのは、それを紹介するにあたって迂闊な説明をしてしまうと、それだけで作品として一番のキモであるところのトリックをバラしてしまうことになりかねないものです。
特に、間違っても未読の人に対して「この作品は叙述トリックを使っているんだよね」というようなことを言ってしまってはいけません。
この作品は容疑者となる登場人物たちの言動だけではなく、それ以外の地の文章などでもこちらを引っ掛けようとしてくるぞという覚悟をしながら読むことで、本来であれば心地よく騙されてくれるはずの読者が騙されてくれないというのは、作者と編集者の意図や苦労を無にしてしまうことにもなってしまいますし、何より、非常に心苦しいですから。
やはり、叙述トリックの作品は何も事前知識などを持たずに読み始めた上で、素直にトリックに驚かされるのが正しい読み方でしょう。

ですので、本作についてもこれ以上の事はここには書かないで済ませることにします。
こんな紹介で、どこまで本作の面白さが伝わったかは分かりませんが……




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