FC2ブログ

「なめらかな世界と、その敵」

 2019-09-07
各地で大絶賛の声が沸き起こって一大ムーブメントと化している、伴名錬の『なめらかな世界と、その敵』。
2010年にデビューした作家ながら、これまでに単独で刊行された書籍はデビュー作が収録されて同年に発売された1冊のみ。
その後は中短編を中心にSF作品を発表してきた作者の、2冊目の作品集であり、発売前から2019年のベストだとも噂されていた1冊です。

6月に百合SFアンソロジーとして発売された『アステリズムに花束を』に収録された「彼岸花」が私が初めて読んだ伴名錬作品でしたが、そこで感じたのは、凄く上手い作品を書く人だな、ということでした。
で、そこから他の作品も読んでみようかという気持ちも湧いたきたところに、本作の発売です。
しかしながら、単行本の購入というのは財布には厳しいし、置き場所も必要になるから、文庫化を待とうかなとも思ったりしました。
つまり当初は、それでも別にいいんじゃないかな、と私の中の天邪鬼は判断したのです。
が、その後、早川書房の担当編集者や、同作に収録されるという書下ろし新作を先行して読んだという様々な人の感想が出てくるにつれ、そのあまりの高評価っぷりに、さすがに、これを発売時点で読まないのは判断を間違えているのではなかろうかという思いが強くなり、結局、こうして読了の報告をすることになった次第。

さて、そんな『なめらかな世界と、その敵』に収録されているのは、全部で6作。
順に、表題作である「なめらかな世界と、その敵」「ゼロ年代の臨界点」「美亜羽へ贈る拳銃」「ホーリーアイアンメイデン」「シンギュラリティ・ソヴィエト」「ひかりより速く、ゆるやかに」となっています。
それぞれに切り口や書き方は違えども、人と人との関係性を描いていること、基本的に人の善性……というか、人が人を想う気持ちというものに対して前向きなスタンスであること、そして何よりもSFというジャンルに対する深い愛を感じる作品となっているなと、私は感じました。

このうち、SFへの愛に関して言うと、どうやら本作の収録作品にはそれぞれ、過去に発表されてきた様々な小説、先達へのオマージュが含まれているのだそうです。
その中には幾つか私でも気が付いたものはありますが、多分、(元ネタを知っているか知らないかに関わらず)気が付けなかったものもたくさんあるだろうなという気がしています。
しかし、そんなことは本作を読む上で障害にはなりません。
我々読者はただ、これ等の作品で提示される巨大な感情に翻弄されつつ、物語の物語である醍醐味を味わえばいいのです。

個人的に気に入ったのはラストの2作品。
2018年に発表された「シンギュアリティ・ソヴィエト」と、本作への書下ろしである「ひかりより速く、ゆるやかに」です。
特に後者は、ネタバレを防ぐために敢えて何も語らないことにしておきますけれど、多くの作家、評論家、読者から絶賛されただけのことはある、今の時代に書かれたことにもの凄く意味のある、間違いのない大傑作。
SF好きでなくとも、小説を読むのが好きだという人、いわゆる「エモい」話を読みたいと思っている人は、絶対に読み逃してはいけない、2019年のマストな作品だと思います。絶対のお勧め作品。

伴名錬は、この先、もっと凄いもの、もっと良いものを読ませてくれそうだと、期待せずにはおれません。




タグ :
コメント












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバックURL:

http://pantarheibekkan.blog110.fc2.com/tb.php/2120-bc38e3c4

≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫