FC2ブログ

「アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー」

 2019-07-06
今週は、既にあちこちで話題になっている1冊を紹介します。
早川書房が出した、世界初の百合SFアンソロジー、『アステリズムに花束を』です。
全収録作から、この「別館」では、特に私が気に入ったものを紹介していくことにします。

まずは、意味正統派、ドストレートな百合小説でもある、伴名連の「彼岸花」。
女学校、先輩=お姉様と後輩=妹な主人公、という舞台設定は大正の匂い、古き良き百合小説的な趣きを濃厚に漂わせつつも、しかしそこに吸血鬼というネタ、歴史改変というネタを絡ませているところ、そしてさらにちょっとした科学技術的な背景を加えているところが、テーマである「百合SF」のSFに当たる部分でしょうか。
「吸血鬼」という設定故に物語は最初から違和感混じりに始まるのですけれども、例えばこれを「肺結核」とか、「療養所」というようなものに置き換えた場合には、そのまま、非常にオーソドックスな古典的百合小説にもなりますよね。
つまり本作は、そういう先達の作品に捧げられた一種のオマージュなのではないか……というのは、私の勝手な想像ですけれど


雑誌『コミック百合姫』と pixiv とが共同開催した「百合文芸作品コンテスト」の応募作の1つで、「ソ連百合」として一部で大きな話題となった南木義隆の「月と怪物」。
ネット上で騒ぎになっていたその時に私も読みましたけれども、確かにかなり刺激的な作品でした。
感情を入れずに淡々と語られる、旧ソ連に生まれたとある姉妹の人生は、短編ながら、まるで一本の映画でも観たかのような気分にさせられるかなりの力作です。
このアンソロジーに収録されているのは、「百合文芸コンテスト」に発表したものに、編集のアドバイスやロシア研究家からの意見を取り入れて全面改稿をした(作者の Twitter に曰く)決定版だということです。

大トリを飾っていたのが、小川一水の「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」。
こちらのジャンルは、架空ガス惑星辺境文化巨大ロケット漁船百合です。
なんじゃそりゃ、と思われるかもしれませんが、これはどこからどう読んでも、まさしく架空ガス惑星辺境文化巨大ロケット漁船百合以外の何物でもありません。
「百合とは女性同士の関係性である」というのがアンソロジーの隠れ共有テーマだったわけでもないのでしょうけれども、どちらかというとそういうタイプの作品が並んだ中で、これは捻りも何もなく、真っ正直にド真ん中に投げ込まれた剛速球作品と言えましょう。
おそらく、「百合SFアンソロジー」と聞いて誰もが最初に予想するであろうタイプの、正調イチャイチャ百合です。
そして、小川一水お得意の路線である宇宙開拓モノ的な娯楽SFでもあります。
SFというジャンルにあまり馴染みのなかった百合作品愛読者も大満足というような作品で、さすが、小川一水というところでしょう。

クオリティーの高い当たりの作品も多かったですし、SFだとか百合だとか、あまり小難しく考えないで、今まさに活躍している、あるいはこれから活躍が見込まれる作家達による、良質の短編アンソロジーとして認識して、騙されたと思って買ってみるというのは、いかがでしょうか。
お値段分以上の価値は、あると思います。




タグ :
コメント












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバックURL:

http://pantarheibekkan.blog110.fc2.com/tb.php/2095-91c05693

≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫