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「ユートロニカのこちら側」

 2018-10-27
以前にこの「別館」でも紹介した『ゲームの王国』上下巻は非常に面白い作品でした。
それ故に、これはいつか読まなければならないかなと思っていたのが、小川哲のデビュー作、第3回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞した『ユートロニカのこちら側』です。

なお、「ユートロニカ」というのはユートピアとエレクトロニカを合わせた造語ということです。
ユートピアは分かるとして、何故、音楽のジャンルであるエレクトロニカなのかというのは、この文庫版の巻末に掲載された入江哲郎の解説を読めば分かります。
要は、エレクトロニカの持つ浮遊感や抒情性が、作品の方向性に合致していると、作者が感じたかららしいのですが……
私はエレクトロニカのCDも何枚か持っているはずなのですけれども、その感覚は、正直今一つ分かりません。
でもまぁ、こういうのは本人が納得していればいい話なので、特に問題は無いのではないでしょうか。

さて、余談はこれくらいにして、『ユートロニカのこちら側』です。
巨大情報企業が、様々な個人情報、位置情報から視覚・聴覚、嗜好、行動等のありとあらゆる全てをその企業に無条件で提供することで居住許可を得ることができる実験都市アガスティアリゾートを建設。
そこでは情報の提供の対価が支給されるので、それだけで平均以上の豊かな生活を送ることができることになります。

飢えることも無く、プライベートを売り渡しているとはいえ、ただ暮らしているだけで一定の収入が約束された都市。
そのアガスティアリゾートを巡る6つの物語からなるこの作品は、この、ある意味では理想郷ともいえる都市が真実、ユートピアと呼べるものなのかを突きつけていると言えるでしょう。

つまり、ディストピア小説です。
ビッグデータの活用が声高に叫ばれ、もしかしたら私達も自分が知らないところで様々なプライベートを切り売りさせられているかもしれないここ最近の社会のことを考えると、本作についても、ついついあらぬ深読みをしてしまいそうになります。
とはいえ、さすがにそれはやり過ぎというか、あまり意味のあることではないかもしれません。

全体的に、盛り上がりそうで盛り上がり切れないじれったさを感じてしまったのは、ちょっとアレでしたが、読了後に改めて振り返ってみるに、それは私が本作に期待していたことが、実際の本作の在り様とは少しズレていたというか、やや的外れだったということな気がします。
SFコンテスト大賞というのが納得の、良い作品であることは、間違いありません。



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