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「ヒストリア」

 2018-05-26
昨年の8月に発売になった、池上永一の『ヒストリア』は、1994年に『バガージマスパナス わが島のはなし』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビューし、キャリアが23年になる作者が書いた前作の『黙示録』から4年振りになる新作です。

池上永一といえば、ごく1部の作品を除いて、自身の出身である沖縄を舞台にした作品を描き続けてきた作家です。
が、この『ヒストリア』は、装丁に描かれているのが、いきなりチェ・ゲバラ。
昨年はオダギリ・ジョー主演の映画『エルネスト』も公開されていましたが、あの映画にも出てきていた、キューバ革命の立役者の1人である、あのチェ・ゲバラです。

ということは、つまりこれは彼のことを描いているのかな、と思ってしまうと、それは早合点というもの。
これは、これまで沖縄戦については触れずに来ていた池上永一が、構想20年を経て満を持して描いた、大戦末期の沖縄と終戦、駐留している米軍に用地を奪われた人々のボリビアへの移民といった題材を扱った物語です。

とはいえ、そこはやはり池上永一作品なので、本作の主人公は非常にバイタリティーの溢れる女性、知花煉。
沖縄戦における米軍による激しい攻撃で自身の家族を含む故郷の村全てを失い、マブイを落としてしまった彼女が辿る、激動の人生を、沖縄が日本に返還された1972年まで描く年代記、一大絵巻であり、弟カルロスと兄セーザルからなる日系3世のイノウエ兄弟、チョリータのカルメン、沖縄のエリートであった安里や伊計、そしてチェ・ゲバラ等々、魅力的なキャラクターが数多く登場して波乱万丈の物語を紡いでいきます。
池上永一の小説はとかく(いい意味での)暴走が付きものなわけですが、本作に関しては、そこまで大きく暴走をしていたという読後感はありません。
冷静になって振り返れば、あちこちで暴走をしていたと気が付くのですけれど、実際にページを捲っている時には、そういう意識はありませんでした。
これは池上永一がキャリアを重ねて行く過程で技術的に得たものなどが反映された結果なのかもしれませんが、単純に、書き手の年齢が上がると、若い頃のように後先考えない暴走までは、やれなくなってくるということなのかもしれません。

ともあれ、チェ・ゲバラの没後50年、沖縄の本土復帰45年という2017年に発売された本作。
池上永一のこれまでの作家活動の総決算であり、また同時に、これからを占う試金石にもなった、非常に意味の深い作品になったのではないかと思われます。
ちなみに、当初の構想では、この「煉の物語」は2015年まで続く予定だったそうなのですが、沖縄復帰に伴う、結果的にラストシーンになった部分を書いた時点で、ああ、これはここで終わるべきだ、作品としてはここで完結した、と感じて、こういう形での完成になったのだそう。
彼がそう判断した理由は、実際にこれを読めば、多分誰もが納得できる、理解できると思いますが、しかしこれは、かなりショッキングなので、そこの覚悟はしておいた方がいい、ということは書いておきます。



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