「ジハード6 主よ一握りの憐れみを」

 2017-11-11
聖地イェルサレムをすぐそこに望むところまで迫った第3回十字軍を率いる獅子心王リチャードと、その圧倒的な軍事力からイスラムを守ろうとするヴァレリーことアル=アッディーンの最後の対決を描く、定金伸治の『ジハード6 主よ一握りの憐れみを』。

実際には、ここまで物語の中で次々と登場した様々な人物、例えばロビン・ロクスリーであり、ウィルフレッド・アイヴァンホーであり、東の草原から流れてきた「蒼狼」(もちろん、後にモンゴル帝国を築き上げる彼のことです)といった面々が色々と動き回っているので、実際の物語はヴァレリーとリチャードの知と力のぶつかり合い、という感じには、全くなっていません。
正直、サービス精神旺盛に、同時代に活躍した架空の人物や実在の人物をどんどん登場させて、収拾がつかなくなってしまわないだろうかと危惧もしていたのですけれども、まずまず、上手い具合にまとめてきたのかな、という感じです。

とはいえ、さすがに最後になって急に話を動かし過ぎだろうという部分もあって、その辺はもうちょっと無理なくできなかったものかなとも感じました。
前振り的な伏線が全く無かったわけではないし、やり様はあったかと思うのですが……
まぁ、それは物語が完結して、更に15年程が経過している段階で読んでいるからこそ全体を見返してそんな風に考えられるのであって、実際にこの作品を手掛けていた当時の作者や編集者には、そこまでは無理だった、のかもしれませんが。
何しろ、足掛け11年に渡って発表されてきた作品だといいますしね。

ともあれ、物語はこれで、堂々の完結を迎えます。

史実に従えば、第3回十字軍を迎え撃ったアイユーブ朝のスルタン、サラディンが亡くなった後は誰が後継者となるのかを巡ってイスラム世界は10年ほど混乱し、それを治めて次のスルタンとなったのが、サラディンの弟だったアル=アーディルでした。
それをこの『ジハード』の世界に引き寄せて考えるならば、ラストシーンでサラディンの末妹であるヒロインのエルシードと共に東方に旅立ったヴァレリーがシリア/エジプトに戻ってきてスルタン位に就いた、となるでしょうか。
アル=アッディーンがサラディンの「弟」である、というのも、この場合はポイントですよね。
つまり、ヴァレリーとエルシードは……と解釈できるわけです。

なお、アル=アーディルの次にスルタンになったのは、彼の息子であるアル=カーミル。
この辺りも、本作を読んだ身にすれば、色々と妄想の膨らむところです。

そういう余地が残っていて、かつ、あれこれ想像したくなってくるというのは、つまり、それだけ本作が面白かったということに他ならない、と言っていいでしょう。
読んでいて、作者の男女観にちょっと首をかしげたくなるような部分もありましたが、まぁ、それはそれ。


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