「カミカゼの邦」

 2017-09-30
ライトノベルの分野で活動して20年、神野オキナが一般文芸で初めて発表した作品が、『カミカゼの邦』です。
彼がこれまでの作家生活で得たものを全て注ぎ込んで、作家活動を始める前から抱いていた様々な葛藤や怒りや戸惑いといったものを、血と謀略とバイオレンスと、そしてそれに添えられるエロスと背徳感とで彩って、エンターテインメントとして結実させた1作であり、(本人もコメントしているのですが)まさしく畢生の力作になります。

表紙の見返しにあるあらすじ紹介を、引用させていただいてみましょう。

「魚釣島に日章旗を立てた日本人を中国人民解放軍が拘束。それを機に海上自衛隊護衛艦と中国海軍が交戦状態に入った。在日アメリカ軍もこれに反応、沖縄を舞台に、ほぼ半年にわたって戦争状態が継続することとなった。米軍によって組織された民間の自警軍―琉球義勇軍に参加した沖縄生まれ沖縄育ちの渋谷賢雄は、自らの正体を率い、血で血を洗う激戦を生き抜く。そして、突然の終戦―。東京に居を移した賢雄の周辺を、不審な輩が跋扈し始める。暗躍する中国の非合法工作員<紙の虎>の正体と、その作戦実行部隊<紙の風>の目的は―?やがて賢雄のもとに、かつての個性的な部下たちが、再び集う。さらなる激しい戦いの火蓋が切られた―。」


これを見る限り、物語の前半が沖縄での戦闘、後半が東京での国際謀略アクションなのかなと思う人がいるかもしれませんが、実際のところは、沖縄パートは物語の序章のみ。
2段組で約440ページというボリュームの、60ページ程でしかありません。
むしろ、ここはその後の展開の為の仕込みに過ぎません。

本作は、実際、明日にも現実世界で起きてしまうかもしれない危機を描いていあるのですが、ここに見られる中国、アメリカ、韓国、日本、という国家間の対立と、神野オキナの生まれ育った沖縄の関係その他、本作の全てのページに渡って横溢しているルサンチマンは、義憤や公憤というよりは、冒頭にも書いたように、彼本人がずっと抱え続けていたものであり、この作品を、右寄りとか左寄りとか、思想的なことで判断しようとするのは、その意味でも、明らかに間違いでしょう。

本作は、あらゆる場面であっさりと、それも大量の死体が生み出されていきますし、作者の情念がドロドロと渦巻いてあちこちに牙をむき出していますエロスやバイオレンスに遠慮が無く、モラルは端から考慮されていません。
更に、登場人物が一部を除いてみんな壊れていて、正直、これを苦手だと感じる人は多かろうな、と思わないわけには行かない作品です。
その一方で、読書好きを名乗るのであれば、2017年はこれを読まなければ嘘だろうとも、思ったりしているのですけれど……。


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