「深紅の碑文」

 2017-01-28
発売当日に買ったはいいものの、重い内容であることが容易に想像されてなかなか読まずにいる内に、気が付けば文庫落ちされたからも約1年が経過してしまったのが、今回、「本館」に先がけて紹介する読了本として選んだ、上田早夕里 の『深紅の碑文』上下巻。

地球全土に大氷河期をもたらすと予想される、地球内部の熱循環であるプルームテクトニクスが引き起こす壊滅的な環境変動 <大異変> が早ければ数十年後に現実のものとなることが確実となっている世界。
つまり、滅亡が確定している世界で、それでもわずかなりの希望の為に少しでも最善の道を辿ろうともがく人々を描く作品です。
世界と人類の終焉が来ることが確定しているのが大前提ですので、どうしても暗く重苦しい内容であり語り口になるのは、致し方のないことでしょう。

前作『華龍の宮』では、それでも、<大異変>後の世界に人がいかにして生き残るか、という部分にも多少は焦点が合っていたような印象があるのですが……
本作は、避けえないカタストロフィーに対し、その日をいかにして迎えるべきか、陸上民と海上民、そしてそれぞれの中でも様々に対立する人々の争いをどうやって終わらせるのか。
そういう、ネゴシエーション的なところがクローズアップされた物語になっています。

<大異変> が発生した結果として人類がどうなってしまうのかというのは、実は既に前作のエピローグで描かれています。
そう思えば、本作における主人公達の頑張りが、いざ世界を破滅的災害が襲った時に実を結ぶかどうかというのは分かってしまっているのですが……。

この物語のキモになるのは、奇跡的な解決策や技術革新ということではなく、99%以上の確率で負け戦になると分かっていて、それでもなお抗い続ける人の姿を描くことにある、わけですね。
そこに物語的な意味でのカタルシスは無いのですが、じわじわと心に迫ってくるもののある作品だと感じました。
完成度だったり読み終えた後の充実感だったりといった要素でいえば『華龍の宮』の方が上かもしれないのですが、しかし、これは想像以上にいい作品だったと思います。
実は、読み始める前には続編を書いたことが蛇足になりはしないかという心配もしていたのですが、それも幸い、杞憂に終わってくれましたし。

 深紅の碑文(下)
 (2016/2/24)
 上田 早夕里
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