「アンダーグラウンド・マーケット」

 2017-01-21
以前に読んだ 『オービタル・クラウド』 と 『Gene Mapper -full build-』 が共にかなり面白かったので、これは著者である藤井太洋の他作品も読んで行かなければなるまいということを前から考えていたのですけれども、そろそろそれを実行に移そう読了した 『アンダーグラウンド・マーケット』 が、今週の「本館」更新に先がけた読了本紹介として選んだ1冊。

2020年の東京オリンピックを誘致する活動の中で日本政府がTPPの労働力流動化条項を呑んだことで、日本人と同等の扱いと成功を夢見た移民が流入し、移民人口が1,000万人を超えたという架空の2018年東京が舞台の作品です。
作中、安価な労働力として消費されることを嫌った少なからぬ移民が、持ち前のITスキルを活用して同じ境遇の移民相手のビジネスを起業したのですが、少ない利益の中から「公平な税制」の美辞麗句の元に一律15%に設定されるようになっている法人税や消費税、所得税を納めることが難しいと感じた彼等は、出身国への送金に用いていた仮想通貨を取引の決済手段としても使い始め、その経済活動を日本円を媒体とした「表の経済」からデジタルな「地下経済」へと移行させています。
そんな彼等が使っているのが、中華系やインド系の企業が日本円に連動させる形で提供した「N円」。
このN円はあっという間に移民の間に広まって、本作の物語の時点では移民間の費用の支払い、屋台等での飲食費、生活雑貨や食料品の購入代金なども全て、このN円が使われるようになっています。

主人公は企業に就職して表の経済の一員となることに失敗し、地下経済の中で生きる道を選んだ若きITエンジニア。
中小企業の商売を、仮想通貨であるN円を使った無税取引に改造する仕事を請け負って報酬を得ています。
そんな彼が相棒と共に請け負ったWebサイト改造の仕事で、決済システムを巡る問題が発生して……という展開から、物語はN円を巡っての大きなトラブルへと発展して行きます。

経済小説とか架空世界のSF小説というより、読後はむしろ、若者たちが自分達の才能と情熱を武器にして古い体制と対決して行く青春小説を読んだ、という感が強く残ります。

なお、本作の要となるN円の設定などを見ていると、ビットコインのことを連想せずにはおれませんでした。
2014年2月のマウントゴックス社の経営破綻をきっかけに名前を聞くことも少なくなってきていたビットコインですが、そのまま立ち消えになってしまったかと思いきや、ちょっと気になったのでネット等で調べてみたら、ここのところまた脚光を浴びつつあるようです。

今回の本題では無いので触れずに済ませますが、N円の発想のベースになったであろうビットコインと作中のN円との違い等を比べてみるのも、もしかしたら、ちょっと楽しいかもしれませんね。

 アンダーグラウンド・マーケット
 (朝日文庫)

 (2016/7/7)
 藤井 太洋
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