「小説の神様」

 2016-10-29
十代で学生作家としてデビューしたものの、ネットレビューで酷評され売り上げも振るわないことで、創作への情熱やなぜ自分が小説家になろうと思ったかという動機などを見失いかけている主人公の男子高校生。
そんな彼が、担当編集者からの提案で、お嬢様学校から同じクラスに転校してきた人気作家と合作をすることになるという導入で始まるのが、今回、「本館」に先駆けて紹介する読了本として選んだ相沢沙呼の『小説の神様』です。

高校を舞台にして男女が一緒に小説を作っていく、というシチュエーションは、例えば以前に紹介した野村美月の『下読み男子と投稿女子 ~優しい空が見た、内気な海の話。』等もそうでしたし、小説に限らなくても、ラノベや青春小説によくあるネタです。
なので、そういう意味では本作も非常にありふれた作品だと言えます。
しかし、この作品が他と差別化に成功している点として、この主人公に作者である相沢沙呼本人がかなり色濃く投影されていると思われるところが挙げられます。

本人の twitter 等を見ていれば一目瞭然なのですが、相沢沙呼は、自作に対する世間の評価、ネット上の評価というものに非常に敏感な人で、エゴサーチなどもしばしばやっては落ち込んだり悶えたりしているのですが、その性格がそのまま本作の主人公に当てはまっているのです。
また、ちょっとネタバレになってしまいますが、主人公がシリーズ化を構想していた作品が打ち切りになるところも、おそらくはちょうど本作を執筆している頃の実体験に基づいているのでしょう。
具体的には MF文庫J から出した『緑陽のクエスタ・リリカ 魂の彫塑』がシリーズ化を断念せざるを得なくなったそうで、古き良きラノベファンタジー路線だった同作は、私を含めてそういうジャンルが好きで読んだ人には高評価を得ていましたが、セールスは振るわなかったようなのです。
それはかなり面白く読ませてもらったし、続きが出るなら読みたいなと思っていた私としても非常に残念なことなのです。
とはいえ、商業出版はボランティアでは成り立たないですし、昨今の出版不況下にあっては出版部数の決定と打ち切りの判断も昔に比べれば相当にシビアなことになっているということは聞きます。
作者が情熱をこめて書いたということも伝わっていた作品なので、その無念さは、良く分かりますが、この辺は難しいところですね。

話がズレましたが、そういう、作者の心中で渦巻く諸々の感情がダイレクトに反映されている(と思われる)本作は、それ故にちょっと生々しさが漂っているのですけれども、そこが(フィクションであることから来る嘘くささを薄めるという点で)作品の良さにもなっているようにも感じられました。
ただし、それが嫌だ、主人公の性格や言動が受け入れられない、という人もいるでしょうし、要は誰が読んでも面白いというような明朗快活な作品ではなくて、鬱屈したものを、それもまた良しとして行ける人向けというようにも言えるかもしれません。
まぁ、とはいえ、そこまで屈折しまくった作品と言うわけでも無いので、誰であっても普通に読めるとは思うのですが、面白いと思えるかどうかの分岐点は、その辺りにあるかな、と。
ちなみに私は、非常に面白く読ませてもらいました。これ、好きです。

 小説の神様
 (2016/6/21)
 相沢 沙呼
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