「ハーモニー」

 2015-11-17
2009年の3月に34歳の若さで肺ガンにより亡くなったSF作家、伊藤計劃の残した作品を劇場アニメ化するという企画、Project-Itoh の第2弾として公開された、『ハーモニー』を観てきました。
3作の中では一番アニメ化が難しいのではないかと私が思っていたのが、この作品。
ですので、果たしてどれくらいのモノになっているのか、どう仕上がっているのか、ちょっとした不安を抱きながら、上映開始を迎えることになったのですが……

結論から書きましょう、いい出来の映画でした。
会話が主体になってしまって、アニメーションらしい動きに乏しい為、どうしても途中で少々まったりしてしまう部分があるのですが、それを差し引いても、高く評価できるものになっていたと思います。

ただし、不満が無いわけではありません。

その中で一番気になったのが、本作の基本的な世界設定であるところの、〈Watch Me〉と呼ばれる体内に埋め込まれたナノマシンによって築き上げられた世界の描写が、ちょっと足りないかな、ということ。
その「生命主義社会」とは、常に身体の健康状態が監視され、心身ともに健康であること、社会の調和を重んじることを厳守することを徹底する超高度医療社会です。
これは、誰もが互いを思いやる「やさしい」世界であると同時に、超管理社会であり、相互監視が徹底された社会でもあります。
「健康であること」を強制される鬱陶しさ、自分の体を自分の自由にできないこと(社会に貢献する公共のリソースとして扱われる)への耐えきれない息苦しさ、それを、キャラクターの言葉だけでなく、もう少し描いてくれていたら、そのディストピアっぷり(人によってはユートピアだと感じるかもしれませんけれど)が、より伝わったのではないか、と。
その方が、主人公である霧慧トァン、本作の最重要人物である御冷ミァハ、そして2人の友人である零下堂キアンが、ミァハの提案、ミァハの意思に従うようにして自死を試みたことの背景、ミァハの行動原理が鮮明になったはず。

その他の部分、例えば一部で話題になっている原作からの改変部分は、私には気になりませんでした。
何より、(第1弾の『屍者の帝国』もそうでしたが)声優陣の熱演が素晴らしい。
トァン役の 沢城みゆき も良かったのですが、特に、ミァハ役の 上田麗奈 が、特に最高級の演技を聴かせてくれています。
本作はラストがラストなので、誰にでも気軽に薦められるような作品ではないのですが……それを踏まえてなお、これは多くの人に観てもらい、そして色々と感じて、考えて欲しい作品だと言えます。

なお、制作会社であったマングローブの経営破たんで完成が危ぶまれていた『虐殺器官』ですが、この Project-Itoh のチーフプロデューサが自ら新会社を立ち上げ、そこで現スタッフのままに制作を継続すること、来年以内の完成と、時期は未定ながらも劇場公開を目指すことが発表されました。
もう少し早く観たいというのが偽らざる本音ではありますが、新会社の設立と制作体制(機材含む)の準備、マングローブからの様々な引継ぎ(債権者との交渉含む)、遅れ気味だったらしい制作のリスケジューリングなどを考慮すれば、これは、妥当なところではないでしょうか。
頓挫、お蔵入り、という最悪の結果が回避され、公開までの道筋が示されたことは、非常に喜ばしいことです。




<公式サイトはこちらから>
タグ :
コメント












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバックURL:

http://pantarheibekkan.blog110.fc2.com/tb.php/1515-349c192c

≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫