「さよならアリアドネ」

 2015-11-02
TVアニメ『亡念のザムド』や劇場アニメ『伏 鉄砲娘の捕物帳』の監督で、その他にも多くの作品のコンテ等を手掛けたアニメ監督・演出家である宮地昌幸。
そんな彼の、初のオリジナル書下ろし小説が、今回の「本館」更新に先行しての読了本紹介に選んだ『さよならアリアドネ』です。

宮地昌幸はこれ以前に、その時点での己の持てる全てを注いで物語を作り上げた『亡念のザムド』を原作者かつ監督としてノベライズした『新訳 亡念のザムド』上下巻(ソニーマガジンズ)という傑作を既にものにしています。
なので、厳密にはこれでデビューというわけでは無いのですが、今回は初の完全小説オリジナル作品ということで、まぁ、その意味ではデビューサクに準ずるということにしても、いいかも。
で、『~ザムド』のノベライズを高く評価している私としては、そんな本作が、実際どれくらいのものになっているのか、書き手の情念が全てのページに封入されていた『~ザムド』と比べ、どこまでのものを書きあげてきているのか、そこに大いに関心を持ってたました。

ここでちょっと、裏表紙にも印刷されている早川書房公式の内容説明を引用してみましょう。
曰く。

「「15年後、あなたは奥様や友人に見捨てられ不幸のどん底にいます」平凡だが幸せな毎日を過ごすアニメーター・服部政志に、未来からきた中年女性“アリアドネ邦子”は、恐るべき破局の訪れを告げる。「15年後の8月23日を72回繰り返してください」―そうすれば、最悪の将来から逃れる方法が見つかるという。ヒントは飼い猫のコテツ!?夏の終わりの吉祥寺を翔けるタイムトラベル・ラブコメ!気鋭のアニメ監督初の書き下ろし。」

……うん、さすがはプロの編集者が書いただけあって、私がここで妙な文章を書くよりも余程的確に内容を要約しています。
もちろん、あくまで要約であって、実際に本作を読むと、これだけではない色々な要素、色々な展開を味わえるのですが。

タイムトラベルもののSFには傑作が多い、というのは誰の発言だったのか覚えていないのですけれど、タイムトラベルというネタと恋愛ネタとは親和性が高くて、それを上手く盛り込んで来れば、それだけでもう話が面白くなることが約束されるような、そんな気さえしてきてしまうのは、私だけでしょうか。
これが極論であり、このジャンルも玉石混淆で、出来のいいものがあればその逆もある、というのは分かっていますけれど、タイムトラベルSFな恋愛モノというだけで、読み始める前の第一印象というか、期待値は、どうしたって高まります。

本作については、その、事前に設定されたハードルの高さが裏切られること無く、さらに思ってもみなかった意外性もあって、最後まで一気読みしてしまったという、読み手としてはまさに最高の気分を味わえた作品だったと言えます。
必要以上に複雑だったりややこしくなっていたりして読みにくくなっていたりはしませんが、(詳しいことは、これから読む人の楽しみを奪わない為にも書かずにおきますけれど)これは、上記の「あらすじ紹介文」に書かれていることで終わるような、そこまでシンプルな作品ではありません。
なる程、こういう展開になるのか、と、終始わくわくしながら、読了。
人と人とが暮らすということ、年齢を重ね、仕事の経験を重ねるうちに、いつの間にか持つようになってしまう自意識、生きていくということの意味、といったようなアレコレを考えさせられました。

是非、手にとって読んでみてほしい、お薦めの一冊です。

 さよならアリアドネ
 (ハヤカワ文庫JA)

 (2015/10/21)
 宮地 昌幸
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