「屍者の帝国」

 2015-10-05
2009年の3月に34歳の若さで肺ガンにより亡くなったSF作家、伊藤計劃。
そんな彼が生前に準備を進めていた第4長編の、その残されていた冒頭部分の試し書き(原稿用紙30枚程度のもの)とA4サイズ2枚程度のプロットから、彼の盟友である円城塔が書き継いで完成させたという経緯を持つ作品が『屍者の帝国』。
彼の残した著作の内、ゲームのノベライズである『メタルギア ソリッド ガンズ オブ パトリオット』を除く3冊をノイタミナムービー第2弾として、連続公開するという企画が、Project-Itoh。
その1作目として公開された『屍者の帝国』を、観てきました。

伊藤計劃作品の劇場アニメ化、という括りで行くのであれば、円城塔との共作……というよりも、8割がた円城作品だと言える『屍者の帝国』を3作品の皮切りにするというのも、どうなんだろうという気がしないでもありません。
やはり、原作の発表順にすべきではないのか、と。
それでも、先行して公開されている情報などから、3作が3作ともに、良い出来の映画になっていそうだから、これは楽しみだな……と、思っていたら、そこに飛び込んできたのが、『虐殺器官』を制作していたマングローブの経営破たんの知らせ。
案の定、2番目の公開を予定されていた『虐殺器官』は公開延期ということになってしまいました。
3作品の中では一番ストレートに分かりやすい話で、この企画が成功するか否かの鍵を握る作品だと思っていただけに、果たして『虐殺器官』がどうなってしまうのか、そこはもの凄く心配なのですけれども、まぁ、考えても仕方が無いことを書くのはこれくらいにしておきましょう。

で、『屍者の帝国』です。
ヴィクター・フランケンシュタイン博士が最初の屍者蘇生に成功して以来、疑似霊素をインストールされた屍者が労働力として欠かすべからざるものとなっている、そんな19世紀末の世界が本作の舞台。
そんな世界で英国諜報部員のジョン・ワトソンが、言葉を話し魂を有する唯一の屍者である「フランケンシュタインの怪物(ザ・ワン)」を生み出した技術の記された「ヴィクターの手記」を追ってアフガニスタン奥地への旅に出る、というのが、本作の大まかな出だし。

映画『屍者の帝国』のテーマが「魂とは何か」「魂の所在とは」、「魂の是非」について問うことにあるというのは、異論のないことでしょう。
もちろんこれは原作においても重要なテーマの1つですが、ここでは、特にそれにフォーカスしてきたという感じ。
そのテーマをより強く浮き彫りにする為にそうなったのか、それとも、原作を2時間以内にまとめる過程でそうなっていたのか、それは分かりませんけれど、この映画は基本的な登場人物設定などの点で、原作とは大きく異なっています。
それをどう捉えるかは人それぞれだと思いますけれど、もともと原作自体、伊藤計劃の残した冒頭30枚(30ページ、ではなくて、30枚)の草稿から円城塔が構築して行ったものなのですから、今回のアニメがオリジナル要素で物語を(基本的な軸になる部分は崩さずに)アレンジしてくるのも、また、「Project Itoh」と銘打った企画にはふさわしいかも知れません。
「自分だったら、こうする」的な部分、というか……

分かりやすい「悪」を倒す勧善懲悪ものではありませんし、扱っている題材が「人の魂」なので、物語はどうしたって少々難しいものになってしまいます。
その難しさを補うかのように、ヴィジュアルやアニメーションは、かなり高いレベルにあります。
特に、屍者の動きが秀逸でした。
制作側も相当のリソースを投入し、スタジオの全力を注ぎ込んで作り上げた作品ではないか、そんな風に感じています。
声優の演技も頑張っていましたし、これは、かなりの傑作になったのではないでしょうか。
マングローブの一件もあっただけに、哲学的、と言ってもいいテーマの作品なので、「難しい」という評判が先行して観客動員数が悪くなってしまうということが無いことを願います。




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