「氷山の南」

 2015-05-18
「本館」更新前に紹介する読了本、今回選んだのは池澤夏樹の『氷山の南』です。

これは、水資源が不足しているという現実を解消する為に、南極海からオーストラリアまで氷山を曳航しようというプロジェクトを担う船に密航した少年の、その航海を通じて成長して行く姿を描いている作品になります。
裏表紙の作品紹介には「21世紀の新しい海洋冒険小説」と謳われているのですけれども、さすがにこれはちょっと違うか、な。
海洋冒険小説」と言うのであれば、そこにはもうちょっと血沸き肉躍る活劇部分があってしかるべきだと、個人的には思うのです。
本作は、そういうフィジカルな作品では無くて、どちらかというとメンタルな側面の強調された物語でした。
アイヌの血を引く主人公が自身のアイデンティティを求める「自分探し」の旅、と評した方が適切かも。
まぁ、精神的な体験も冒険の一つである、と言われてしまえば、それまでなのですが。

主人公がアイヌの血を引いているという設定なので、彼の成長過程に大きな影響を及ぼすことで物語に係ることになる主要なキャラクターも、祖母が中国からの移民だという中華系アメリカ人のヒロインや、アボリジニの画家で土産物的な絵では無くて自分自身の「絵」がどのようなものなのかを探している少年だったりというような面々が揃っています。
一応、プロジェクトを妨害しようとする勢力も出ては来るのですが、その辺の対立関係は、完全にオマケですね。
物語上無意味だとまでは言いませんけれども、特に「無くてはならない」というようなものでは、ありません。

ただ、物語を読ませる、という点で、本作はどこかしら脚が宙に浮いているような、腰の定まっていないような感覚があります。
そして、残念なことにそれが故に、ストーリー自体もあっちへふらふら、こっちへふらふらして落ち着かないような印象を覚えてしまいまました。

池澤夏樹作品の中では、中の上、というところ、かな。
『マシアス・ギリの失脚』(新潮社 新潮文庫)や『すばらしい新世界』(中央公論新社 中公文庫)、そして何より(個人的に彼の最高傑作だと思っている)『静かな大地』(朝日新聞社 朝日文庫)には及ばないです。残念ながら。

氷山の南
(文春文庫)

(2014/09/02)
池澤 夏樹
商品詳細を見る
タグ :
コメント












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバックURL:

http://pantarheibekkan.blog110.fc2.com/tb.php/1431-6211df46

≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫