「聖家族」

 2014-10-10
基本的には好きなタイプなのですが、ちょっと作品ごとの当たり外れの振れ幅が大きいなと感じられたことから、著作を全て追いかけるということはせず、これは読もうかなと思った作品のみを手に取ろうと決めている作家、古川日出男。
そんな彼の最近の著作の中で、これは文庫になったら絶対に読まなければならないなと思っていたのが、今回、「本館」に先がけた読了本紹介に選んだ、『聖家族』上下巻です。

下巻の巻末に収録された一文によると、今回紹介する「聖家族」という作品は、古川日出男という小説家の“作家生活十年目”を記念して刊行されることがあらかじめ予測されていたそう。
その為、あらゆるところに過剰であることを求めるようなスタンスで書かれたとのこと。

日本の中央から見てどのような方向に位置しているか、という厳然たる事実によって運命的に鬼門であることをその属性として備えることとなった「東北」という土地。
その「東北」に生きるある家族の、系譜としての、妄想の正史(ヒストリー)。
殺人罪によって死刑囚として獄中にある狗塚羊二郎の、独居房における独白から始まる本作は、次第に時間も世代も超えてその物語の範囲を広げていき、ついには東北の歴史を縦横に走る絵図となります。

章構成等は明確にシンメトリーになっているのですが、そのようなかっちりした構造の中で紡がれるものは、作者曰く「真っ直ぐ」ではない「グネグネ」と錯綜する物語。
なので、本作を読んでいる人は私がそうであったように、一種の酩酊感に襲われる可能性が高いかも知れません。
その結果として、場合によっては、そこに文章として確かに書かれているものが何を語っているものなのかすらも判然とせず、混乱し、困惑してしまうこともあるでしょう。
しかし、本作については、そここそが良い、それこそが魅力なのだ、と言うこともできそうです。

しばしば言われていることですが、古川日出男の小説は、音楽です。
その文章はリズムと音韻が特徴的で、「目で追って読む」よりは「口に出して読む」という行為の方が適切である程に音楽的。
その一方で、「起承転結」もしくは「序破急」という「物語としての作法」については、おそらく自覚的に、極めて重要性の薄いものになっています。
故に、本作は古川日出男の創り出した大作であり、そして彼の作家生活における一つのランドマーク、代表作となるものであるのは間違いありませんが、それと同時に甚だしく読み手を選ぶ作品なのも、これは間違いのないところでしょう。

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