「はなとゆめ」

 2013-11-26
「本館」更新に先行する読了本紹介、今回はちょっと長めになります。

冲方丁の『はなとゆめ』は、『天地明察』『光圀伝』に続く、著者の時代小説第3弾。
これは昨年末から7つの地方紙で新聞連載をされたものになるのですが、江戸時代前期を舞台にした前2作と違い、本作は平安時代を舞台に、清少納言を語り手にして、彼女が仕えた中宮定子との主従関係の日々を描いています。

女性の1人称で綴られているということ、しかもその女性が貴族階級に属する者だということ、中宮定子との関係性に重きを置いた作品である為に作中のかなりの部分を宮中でのできごとが占めること等が本作の特徴。
文章から醸し出される印象が(文体も含めて)、今まで著者が書いてきたどの作品とも異なるテイストを持つもので、そういう意味で新境地というか、作風を広げたな、という印象があります。
1人称の作品ということは、あくまでも清少納言という1人の人間がその立場から知り得たことのみが主観を交えつつ書きつづられるということでもあるので、読み始めた当初は、なんとなくとっつきにくさも感じた、というのが正直なところ。
しかし、ページが進むにつれその語り口にも慣れてきて、そうなってくると、これがかなり魅力的な物語なのです。

平安時代の貴族社会が本当のところどういうものであったのかなんていうことが完全に判明しているのかということは、正直、研究者でもない私には良く分からないことです。
しかし、本作を読むことで、「なるほど、こういうことだったのかな」という、かなり鮮明なイメージを脳裏に描くことができたたのは、冲方丁の筆致の勝利と言っていいでしょう。

読了してから振り返って思うのは、1人称小説にしては、終始語り手である清少納言の視線に自己を重ねることができなかったということが、当初感じていたとっつきにくさの原因なのかもしれないということ。

つまるところは、本作で語られる宮廷の生活などにほとんど現実感を覚えられず、まるでどこか知らない世界の作り事のようにすら感じていた、と言い換えることも可能な気がします。

となると実は本作は私にとって、宮中において自身が感じ愛し尊びそして己を尽くして仕えた「華」と、そんな生活の中で見た「夢」とを、清少納言が己の半生を振り返りつつ綴るのを、読み手として一歩か二歩ほど引いたところから、まるで書き手がフィクションの物語を朗読しているのを聞かされているかのように感じ取るというスタイルの作品だった、のかも。
装丁も美しく、360ページあまりを一気に読ませる面白さもある、なかなかの作品でした。

はなとゆめはなとゆめ
(2013/11/07)
冲方 丁
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