「聖なる怠け者の冒険」

 2013-09-02
「本館」の「雑記」更新に先駆けて、その中から紹介をする1冊、今回は森見登美彦の久々の新刊である「聖なる怠け者の冒険」を取り上げてみます。

もともと本作は、2009年6月から翌年2月にかけて朝日新聞の夕刊で連載されていた新聞小説だったわけですが、毎日コンスタントに少量づつ掲載されていくという新聞小説のスタイルが森見登美彦に合わなかったのか、そもそも徐々に人気の裾野を広げつつあった森見登美彦が仕事を自分のキャパ以上に抱え込んだのか。
結局、余裕のない執筆が続いた揚句に連載は行き当たりばったりでまとまりの無い物語としては破綻したものになってしまったようで、ご本人いわく「建て損ねた家」になってしまったとのこと。

連載が終了した後も、体調の問題等もあって単行本化の為の改稿は難航し、結局、こうして単行本として発売された本作は、連載原稿を一切無かったものとして一から全てを書き直すという全面改稿の結果、連載時とは物語の内容自体も全く違うものとなったのでした。

聖なる怠け者の冒険聖なる怠け者の冒険
(2013/05/21)
森見 登美彦
商品詳細を見る

私は連載時の本作を読んではいないのですが、それなのに何故そこまで言い切れるのかというと、それは、その新聞掲載時の原稿の一部が朝日新聞出版のHP上で公開されているのを読んだのと、本作と同時に発売されたフジモトマサルによる挿絵を集めた本で、フジモトマサルと森見登美彦がコメントしているを読んだから。

聖なる怠け者の冒険 挿絵集聖なる怠け者の冒険 挿絵集
(2013/05/21)
フジモトマサル
商品詳細を見る

そこから分かる連載版の物語は、主要登場人物こそ単行本版と同じですけれども、出だしから終わりまで、別作品と言っていいでしょう。

そのように新しく紡ぎだされた物語は、森見登美彦らしい実に飄々とした雰囲気。

具体的には、虫喰い穴の開いている旧制高校のマントに狸のお面をつけた怪人「ぽんぽこ仮面」の正体を巡って、私立探偵やら謎の組織やらが祇園祭山鉾の土曜日の京都を駆けまわるというのがそのストーリー。
「ぽんぽこ仮面」から跡継ぎになれと迫られる主人公がとにかく怠け者だということもあって、終始空気感は全く力を入れることなく思い切りのんべんだらりとした感じで、されど物語自体は何やら無性にオモシロイので一気に読み切ってしまうという、ちょっとしたドラッグめいた作品でした。
そういうところが、また、いかにもな森見作品です。

基本的に怠け者の物語(そうではない人もいますが)なこと、一度は破綻した連載作品をゼロに戻して組み直したこと、そういった事情が色々と影響してなのか、エンターテインメント的な盛り上がりやテンションの高まりは期待しない方がいいです。
その意味で、森見登美彦初心者よりは、彼の作品を多く読んでいる熱心な読者向けのと言えるかも。

ちなみに本作は彼が過去に出版した2作品、「有頂天家族」と「宵山万華鏡」との関連付けがかなりあります。
それを読んでいないと駄目というわけではないけれども、事前にそれ等を読んでいる方がより楽しめる、という点からも、森見ファン向けです。

それにしても、登場する某キャラは、やはり「有頂天家族」の矢二郎なのかな……?

有頂天家族 (幻冬舎文庫)有頂天家族 (幻冬舎文庫)
(2010/08/05)
森見 登美彦
商品詳細を見る
宵山万華鏡 (集英社文庫)宵山万華鏡 (集英社文庫)
(2012/06/26)
森見 登美彦
商品詳細を見る
タグ :
コメント












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバックURL:

http://pantarheibekkan.blog110.fc2.com/tb.php/1103-316baa6e

≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫