「言の葉の庭」

 2013-06-04
特に確たる根拠があってのことでは無かったのですが、何となく、新海誠監督作品を観ることは自分にとって「負け」だという感覚をずっと持って過ごしてきました。

実のところ、新海作品については、あちこちでちらほらと目にする限り、色彩センスは私の好みの方向性ですし、ストーリーも結構好きなジャンルだと言えそうだと感じていました。
彼がその名前を知らしめた『ほしのこえ』の時分から、これは、観たら結構、気に入るんじゃなかろうかと、思っていたのです。

ですが、そこで実際に作品を鑑賞するまでに至らなかったのは、作風にやや独りよがり的なところを感じていたこともあったのですが、一番大きな理由は、つまり、「泣ける作品」だとか「感動作」だのという言葉ばかりが先に耳に入ってきてしまったことで、逆に一歩引くような感覚になってしまったから。
その後も、実写のドラマや映画などに、いくらなんでも安直に「不治の病」だったり「余命〇〇ヶ月」だったりといった設定を使いまわし過ぎているんじゃないかと思える作品が目についていて、個人的に「泣ける」と評される作品に微妙に嫌気がさしてきていたことも重なったりして、結局、今に至るまで、私と新海作品との間には一切の接点が無いままでした。

そんな私ですが、別の映画を鑑賞した際に流れた予告編が大いに気になって仕方が無くなってしまったこともあり、ついに今までの方針を撤回し、映画館まで足を運んできました。
そう、新海監督の新作である『言の葉の庭』を観る為に。

以下には結構なネタバレも含む感想を書きますので、それでも構わないという人は「続きを読む」をクリックして、後半をお読みください。


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上映時間は45分ほどで、ボリュームとしては中編といったところの本作。
物語の内容からしても、ちょうどいいくらいの長さ、程よいの密度の作品だったと思います。

冒頭から最後まで、こちらが期待していた以上に映像が美しかったので、極論を言えばそれだけでも大満足なのですが、物語の方も、なかなか楽しめました。
ただ、この物語にキャラクター造形や物語構造のリアリティーを求めると、空振り感を覚えてしまうかもしれません。
現代日本の見知った風景を舞台にしているので、ついついリアルな現代劇と思ってしまいそうになりますが、これは一種の御伽噺、ファンタジーだと思って鑑賞するのが、正解。
だからこそ、中編映画であるこのボリュームが最適解だと感じるわけです。

さて、それでは簡単に中盤くらいまでのストーリーを。

新宿御苑で出会った15歳の高校生タカオと27歳の女性ユキノ。
それぞれに現実への停滞感を抱えつつ、雨が降っている日の午前だけ、日本庭園の東屋で、はっきりした約束は無いままに2人の逢瀬は繰り返されます。
そうして回数を重ねていく内に深まる心の交流。
職場に出社もせずに、平日の朝から公園で文庫を読みながらビールを飲みチョコレートを齧るユキノは、居場所を無くし、上手く歩けなくなってしまったと語り、そんな彼女が歩き方を思い出せるように、たくさん歩きたいと思うようになるようにと、靴職人を目指すタカオはユキノの為に靴を作ろうと決意する。
そんな2人の心情を、(ちょっとベタですが)丁寧な演出と、こだわりの美術、作品を彩る様々な雨がじっくりと描いていきます。

雨の降る中、学校へ、会社へと向かう人の流れから離れて人影のない新宿御苑の日本庭園に向かう2人は、それぞれ、傘の下という、「雨の降りしきる街」という外界から切り離された空間を得て、己の停滞感をそこに封じ込める。
それがある種の逃げであり、そのままでは決して解決されることは無いと、おそらくタカオもユキノも分かっているのでしょう。
そんな2人が、御苑の東屋という「傘」の下で、時間と空間を共有する。
物語中盤とラスト近くにある藤棚のシーンにおける対比も含め、この、「傘」の使い方が印象的でした。
「今まで生きてきた中で一番の幸せ」を感じながらも、2人が選んだ結論。
2人で同じ「傘」の下にいることは確かに幸せかもしれないけれど、そこには先が無い。
ユキノが再び居場所を見つけて歩き出す為には、タカオがたとえ困難だけが待っているとしても自分の進む道は確かに靴職人なのだと覚悟を決めて歩き出す為には、それに甘んじてはいけない。
幸せを感じた直後に、ユキノのマンションの外階段で、初めてむき出しにした感情をぶつけ合うことを経て、2人とも「傘」の外に出て歩き出す。

あくまで個人的な感想なので、監督が本当にそういう風に考えているかどうかは分からないけれど、私としては、この作品を映画館で鑑賞しながら、そんなことを思っていました。

なお、作中で描かれるのはそこまでで、その後の2人がどうなるのか、そこは映画を観た人それぞれの想像にまかされることになっています。
この作品の場合、これ以上は蛇足になりますから、それで正解でしょう。

私としては、靴職人の専門学校に進学した段階もしくはそこを卒業した段階で、タカオは、自分の作った靴を持って四国までユキノに会いにいっただろうと、そしてその日は雨では無く、むしろ雲一つないくらいの青空の下に違いないと、そんな風に想像しています。
それからの2人について、考えることもないではないのですけれど、まぁ、ここでは描かないでおきましょう。

これは、映像の美しさを十分に堪能できる劇場の大スクリーンで、いい音響のもとで鑑賞した方が良い作品でしょう。
Blu-ray も、買おうかな……?
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