「横浜駅SF」

 2017-05-20
大胆なタイトルが書店で思い切り目を惹いたのが、柞刈湯葉の 『横浜駅SF』。

今でも結構目立つような陳列がされていますが、発売当時、所要があったので立ち寄った横浜駅前の有隣堂では、壁を埋め尽くすようにポスターが貼られていましたし、本書が表紙を向けて平台と壁にズラリと並んでいたものです。
地元プッシュというのが多少あるとしても、作品そのものが面白くなければ、書店員もそこまでのことはやりませんよね。

私にとって横浜駅というのは一時期、数年にわたって日常的に利用していたことがあり、その意味で、個人的にかなり親しみがある駅です。
日本初の鉄道が品川から横浜の間に敷設されたのは1872年のことなのですが、その当時の横浜駅は現在の桜木町駅であり、その後、1915年に高島町駅のところに移転、更に現在地に移動したのは1928年になってから。
それ以来現在に至るまで、常にそのどこかしらで何らかの工事が行われ続けている為に、「日本のサグラダ・ファミリア」だとも称される横浜。
1ヶ所の工事が終わる頃には、別の場所で新しい工事が始まるという繰り返しが続いている為に、もしかしたら永遠に建設中なのではないかとすら思えてしまう。
それこそが横浜駅のアイデンティティーであり、むしろ完成しないことこそが完成形ではないか、というような声まで聞こえてくるくらいです。

その駅名を大胆と題名にいただいた小説で、それも「SF」と堂々と名乗っているのですから、読まずに済ませるという選択肢は無かろうと、書店でこれを発見した時には思ったものです。

工事中であることが完成形である「横浜駅」の姿。
時代の要請に応えて絶えずその姿を変化させていく有様というのは、生物、例えば人間が、酸素や栄養を外部から摂取し、老廃物その他のモノを外部に排出して、常に構成要素の入れ替わりを続けるという流動的な状態を維持することで生きているのと、同じことだと言ってしまえるのではないか。
そんな発想から、まるで生き物が成長するように自己増殖を続けて行く横浜駅の姿を描いた本作。
なかなか刺激的で面白い小説となっていました。



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