「読者と主人公と二人のこれから」

 2017-04-29
今回「本館」に先がけて紹介する読了本に選んだ岬鷺宮の『読者と主人公と二人のこれから』は、読んでいて全身がムズムズとしてくるような、ボーイ・ミーツ・ガールの物語。

過去のとある出来事から、人と積極的な交流をすることを避けている少年が、本作の主人公。
彼はそんな事情から、高校に入学しても、良い意味でも悪い意味でも目立たず、存在感の薄い3年間を送ろうと決めていたのですが、クラス分け後のホームルームで行われた自己紹介の際に、その目論見が大きく崩れ始めます。

中学時代に出会い、そこに綴られた少女トキコの気持ちに多大な共感を覚えていた小説、『十四歳』。
そのトキコと同姓同名(名前がカタカナ表記か漢字か、の違いはありますが)で、容姿や雰囲気が、まるで本の中からトキコがそのまま出てきたかのように思える柊時子との出会いが、その原因です。
小説家である彼女の姉が、妹をモデルにして書いたのが『十四歳』だったと知った主人公は、小説に描かれたトキコから知った情報などを基に、自分と同じように不器用な時子を何かとフォローしようとするのですが……というのが、物語の導入部となっています。

当然ですけれども、いくらモデルとなった人物であり、そこに描写されている内容は彼女の当時の感情そのものに非常に近いといっても、時子とトキコは別人なわけで、その辺りの齟齬が生み出すことになるものが、本作の物語上、大きな位置を占めてきます。
そこに2人がどう向き合うことになるのか、既に結構なところを書いてしまった気もしますし、これ以上のネタバレは避けておきますが……。
いやぁ、青春、ですねぇ。

さすがに登場キャラクターと年齢的にかなり離れてしまっている私は、深く感情移入しつつ読むというよなことはできずに、むしろ物語のピュアさにムズ痒さを覚えつつ読むことになった、というのは、冒頭に書いた通り。
なお、そのムズ痒さは決して嫌なものではなく、むしろ心地よささえ感じるようなものであり、要するに、楽しみながら面白く読ませてもらったのです。

こういう作品は、私のような年齢層ではなくて、むしろ今現役の中高生に読んでほしいところ。
が、ラノベの読者層の中心となるのは30代や40代というような話もありますし、シリーズものでもない単巻作品、それもほとんど有名ではない作者のものともなれば、露出も少ないでしょうから、なかなか、そういう層に手に取ってもらえることも無いのかもしれません。
かなり面白い、良質で大いにお勧めできる作品なのですけれど……うーむ。



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「マイルズの旅路」

 2017-04-22
ヴォルコシガン・サガの完結編という触れ込みなのが、ロイス・マクマスター・ビジョルドの『マイルズの旅路』。
ヴィクトールもマイルズもイワンも結婚し、それぞれにそれぞれ、いい年になっていますし、作者のビジョルドも70歳を目前にしているのですから、まぁ、この辺りが幕の引き際としてはいいところ、なのかも。

もちろん、シリーズのファンとしては、続けられるものであればまだまだこの世界を楽しませてもらいたいという気持ちが無いとは言いません。
もっとも、個人的には、このシリーズが一番面白かったのはマイルズ・ネイスミス提督がマイルズ・ヴォルコシガンに戻る前だったと思ってもいます(その後の各エピソードが面白くないというわけでは、ありません)。
主要キャラクターも歳を重ねて、若い頃のような無茶な行動には出なくなってきていて、シリーズのテイストが微妙に変質もしていたから、そういう意味でも、程良い完結時期、なのかな……。

ただ、今回のエピソードが長いシリーズの最後を飾るに相応しいものだったか、と問われると……うーん、個人的意見ではありますが、正直、その点では微妙、かなぁ。
どうせならば、もっと派手に盛り上がるものが最後に来てほしかったような気がします。
ここでのマイルズの38歳という年齢を考えれば、こんなものではないか、というのも、あるかもしれませんけれど。

シリーズの最後に日本的な要素を入れ込んできたのは、ビジョルドからの、シリーズをずっと愛してきた日本人読者へのサービスと感謝の表れでしょう。
それは単純に、嬉しいなと思います。

ラストでさらっと、シリーズを通じての重要人物にあることが起きるのですが、それが確かにはっきりと、ヴォルコシガン・サガという物語の終わりを告げているとも言えますよね。
読み終えて感じる不完全燃焼さは、もう1作、マイルズの母コーデリアを主人公にした作品があるということなので、それを読めば解消される、のかな?
20冊を超えるシリーズ、ここまで長年楽しませてもらったのですから、今はただ、ありがとう、と言わせていただきましょう。




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「コロボックルに出会うまで 自伝小説 サットルと「豆の木」」

 2017-04-15
今年の2月9日に亡くなった、児童文学作家の 佐藤さとる さん。
その代表作といえば、やはり何といってもコロボックルシリーズが有名でしょう(個人的には、彼の最高傑作は「わんぱく天国」だと思っているのですが)。

そんな彼の、工業専門学校を卒業してから、転職をしつつ童話作家を目指す日々の中でコロボックルシリーズの第1作目である『だれも知らない小さな国』(講談社 講談社文庫)のアイディアを思いつくまでを描いた小説が、『コロボックルに出会うまで 自伝小説 サットルと「豆の木」』。

これを読んだのは、つまり、彼への追悼の気持ちの表れだと思っていただいて、差し支えありません。
小さい頃より、彼の作品には親しませていただいていたので、その訃報には、やはりショックを受けずにはおれませんでした。
とはいえ、こういう訃報に関してしばしば書いていることですけれども、私が子供の頃に既にベテラン気味の作家だったということは、その私が中年になっている今はおいくつくらいになられているのだろうと考えると、そういうニュースをしばしば目にするようになってきてしまっているのも、やむを得ないことでは、ありますよね。

あくまで児童小説家として築いてきたスタイルでこの作品も書かれているので、ややダイジェスト的というか、覚書的というか、そんなテイストになっていると感じられた本作。
もうちょっと色々と描写して語ってくれれば、青春小説としてもいい感じになったのにと思うのはちょっと残念なのですけれども、しかしこれはこれで、いかにも 佐藤さとる っぽいな、とも思うのでした。

他にも未読の作品はあるので、それも、少しずつ読み進めて行くつもりです。



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「旅猫リポート」

 2017-04-10
最初は文芸春秋から、続いて講談社から単行本が刊行され、その後、一部の難読漢字をひらがなにし、総ルビを振って児童書レーベルでの発売となった、有川浩の『旅猫リポート』が、今回、「本館」更新前に紹介する読了本。
ちなみにその後に通常の文庫にもなっている本作なのですが、私が買ったのは、それよりも前に出ていたこの青い鳥文庫版なので(つまり、それだけの間、積読状態になっていたということでもあります)、以下は、それを前提として描かせていただきます。

実のところこの作品については、村上勉の挿絵のイメージもあって、有川浩が典型的な児童小説を書いたんだなと、どうせ猫と少年の一夏の旅的な話なんだろうなと思って、あまり触手が動いていませんでした。
が、実際に読んでみると、そういう私の予想とはちょっと違っていて、これは、なかなか面白い。

とある事情から愛猫を飼えなくなってしまったサトルと、その飼い猫であるナナ。
彼等が新たなる飼い主候補のところを廻るという物語は、前述の通り、作品タイトルと表紙イラストから予想してたものとはちょっと違っていましたが、ペットと飼い主の交流を、ペット側の視点から描く、という基本認識はズレていませんでした。
この旅を通じてサトルは各年代で出会ってきた友人達と会って旧交を温め、ナナはサトルと友人との会話などから、サトルのこれまでの人生を振り返ることになる、というのが本作の仕掛けです。
完全に児童向けかどうかと問われると、若干、どうかなと思う部分もあるのですけれども、しかし概してこれは、児童文庫化する価値のある作品だと感じました。

ベタに徹しているようなストーリーはいかにも有川浩らしいもの。
それはありきたり過ぎてつまらないということに繋がりかねないのですが、しかしこういう題材だとそのベタさは実に有効に働きますね。
一歩間違えば感動の押しつけに堕すところを、微妙なところで踏みとどまることができていますし。

こういう作品を十代前半の少年少女に読んでほしいというのは、出版側の好判断、だと思います。



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「となりの革命農家」

 2017-04-01
それが作家としての1つのテーマになっているのかどうかは、分からないのですが……
以前に紹介した 『限界集落株式会社』 とその続編である 『脱・限界集落株式会社』 同様、現代日本の農村(及び農業)の置かれている状況と、その抱える問題の解決策の模索を題材にしているのが、黒野伸一の 『となりの革命農家』 を、今週は紹介します。

今回のネタは、従来よりある農薬を使う慣行農法から有機農法への転換と、異業種からの農業法人参入のあるべき姿とは、というところでしょうか。
その為、Y県大沼市を舞台にした物語は大きく2つの視点、2人のキャラクターを中心に進んでいきます。
まず、農家の家に生まれてお決まりのように一度は東京に出たもののそこでの生活に馴染まずに帰郷、今は道の駅で販売員をしている小原和也。
彼は自分で作った野菜を直売場で売ってくれないかと持ち込みをしてきた少女と出会い、その彼女と共に有機農法に取り組むことになります。
続いて、大沼氏に進出した農業生産法人アグリコ・ジャパン部長の上田理保子。
親会社である東日本フーズでは大学を卒業して就職をしてからわずか3年で役付きになるなど異例の出世をしていた彼女は、自分の上司である常務と専務との社内の権力抗争に巻き込まれる形でアグリコ・ジャパンに出向することになったのですが、赤字続きのここを黒字化して実績を築き、晴れて本社に呼び戻された暁には、自分を追い出した元専務の社長に辞表を叩きつけてやろうということを、その野望としています。
やがて大沼市に、Y県の主導で農業用水路の整備と農道の拡張を行おうという公共事業の話が持ち上がって……というのが、物語の流れです。

水路整備と農道拡張ですから、通常でしたらむしろ農業の効率化や生産量の増加に繋がる話です。
もちろん用地買収などで問題が全く無いとは言わないものの、一般的に、全体としてはその地域にとってはむしろ良い効果が見込まれることだと言えるでしょう。
しかし、それでは物語が盛り上がらない。
ですので、当然この公共事業の裏側には表沙汰にできない本当の目的だったり、利権や汚職だったりといったものが絡み合って来て、そこが本作のヤマ場になります。
その辺の詳しいことは(バレバレな気もしますが)ネタバレ防止の為にここでは書かないでおきますけれど、ベタながらも、いい感じの物語で、適度な恋愛要素も盛り込まれていてエンタメ小説として押さえるべきところは押さえており、面白く読ませてもらいました。

ただ、難が無いわけでは、ありません。
ネタとして浮かんだものを一つの物語に上手く組み上げたとは思いますし、農業法人による大規模農業との比較として個人農家による有機農法を持ってくるのは分かるのですが、作品中で、それぞれがそれぞれに別の物語を描いていて(乖離しているとまでは言わないものの)今一つ合流しない感があるのは、残念です。
そこら辺がもっと上手く消化できていれば、更にいい作品になったのにな、と思いました。



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