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「青ノ果テ 花巻農芸高校地学部の夏」

 2020-02-22
伊与原新の『青ノ果テ 花巻農芸高校地学部の夏』は、文庫書下ろし作品。
まずは、裏表紙に印刷された粗筋を読んでみてください。

東京から深澤が転校してきて、何もかもおかしくなった。壮多は怪我で『鹿踊り部』のメンバーを外され、幼馴染みの七夏は突然姿を消した。そんな中、壮多は深澤と先輩の三人で宮沢賢治ゆかりの地を巡る自転車旅に出る。花巻から早池峰山、種山高原と走り抜け、三陸を回り岩手山、八幡平へ。僕たちの「答え」はその道の先に見つかるだろうか。「青」のきらめきを一瞬の夏に描く傑作。


つまり、花巻他を舞台に、宮沢賢治をストーリーの軸として描かれる、青春小説です。

このブログだけでなく、「ぱんたれい」の本館を隅から隅までご覧になられている方はご存じでしょうが、私は小さい頃から実家に宮沢賢治全集があり、また、賢治の童話の朗読LPを聞かされて育った関係もあって、結構な賢治ファンです。
自分自身でも ちくま文庫版の全集を揃えてしまっていますし、賢治ネタを絡めた小説や漫画やCDとなれば、それだけで無条件に「買ってみようかな」と思ってしまったりもします。

本作に関しては、それに加えて、私が結構意識していて、その著作は全て揃えていこうかなと思っている伊与原新が作者なのですから、これは、買わないという選択肢は初めから存在しませんよね。

そんなわけで、結構な期待ともに読み始めた『青ノ果テ 花巻農芸高校地学部の夏』。賢治モノというよりは部活モノ、そして青春モノとしての色彩が強いという印象です。
賢治はあくまで、それを語るための題材の1つに過ぎない。
とはいえ、それが悪いというわけではなくて、逆に効果的に賢治要素をストーリーに絡めているため、青春小説としての本作に賢治は不可分にして欠かせないものとなっています。

つまり一言でいうならば、伊与原新、上手いなぁ、ということでしょうか。

「銀河鉄道の夜」とその異稿の相違が物語上の重要な要素になるというのは、最近どこかで読んだなと思ったのですが、山田正紀の『カムパネルラ』がそういう話でしたね。
あちらは歴史改変的なSFでしたので、本作とはジャンルがそもそも異なる、テイストも大きく違う作品ですが。

本作を読んで、花巻その他、作中に出てきた地域への関心が更に増してきてしまいました。
賢治ファンを自任しているにも関わらず、まだ花巻に行ったことが無いという事実に、改めて恥じ入るばかりです。




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「宝の地図をみつけたら」

 2020-02-15
「宝探し」というのは、ロマンのある響きを感じる言葉です。
しかしながら、小学生がちょっとした遊びでやるのはいいとしても、それなりの大人が本気で人生をかけて取り組むとなると、少々はた迷惑なことにもなったりするものですよね。

後者の場合に追い求めることになるのは、大体の場合が、いわゆる埋蔵金や隠し資金。
代表的なのは江戸城開城時に隠されたと言われる徳川埋蔵金だったり、第二次大戦後に進駐軍が接収した財産を隠しているとされるM資金等が挙げられるでしょうか。
そんな宝探しのうち、山梨県に隠されているとされる武田信玄の埋蔵金を探す大学生を主人公にした作品が、大崎梢の『宝の地図をみつけたら』です。

公式の粗筋を紹介してみましょう。

小学生の頃、祖母からこっそり手に入れた「金塊が眠る幻の村」の地図。それは晶良と伯斗の友情の証、そして秘密の冒険の始まりだった。「探しに行かないか、昔みたいにふたりで」。渋々と宝探しを再開する晶良だったが、直後、伯斗の消息が途絶えてしまう。代わりに“お宝”を狙うヤバイ連中が次々に現れて……! ? 手に汗握る“埋蔵金”ミステリー!


この粗筋から、小学生の頃に知ることになった埋蔵金の情報を追いかけ続けた2人の、インディー・ジョーンズばりの冒険小説、と考えると、それはちょっと違います。
前述の粗筋で言うところの「ヤバイ連中」というのがポイントで、それがあるから、本作は純然たる冒険小説というよりは、どこか犯罪小説的な匂いが漂っているわけですね。

とはいえ本作、アクション小説、サスペンス小説として本作を捉えると、それはそれで不満が出てくるというか、物足りなさを覚えてしまうのも事実。
面白いか面白くないかでいえば間違いなく面白い方に分類されるのですけれども、こういう題材でこういう物語を書くのであれば、もう1つ2つ、何かしらが欲しかったところです。
その方が話に深みや重みが出てきて、作品としてのクオリティーがグッと上がっただろうにと思うんですよね。

ただ、この辺は難しいところもあって、今のレベルで書かれているからこそ、本作が読みやすい……という言い方はちょっと違うかもしれないので、娯楽作品として、という表現を使ってもいいかもしれませんが、要するに、普段そんなに小説を読んでいないような人にもすんなりと読める一般性のある作品になっているという側面もあるでしょう。
であれば、サスペンス小説とか犯罪小説としての完成度を高める方向を推し進めるのも、それはそれでどうなんだろうという考えも成り立つわけです。
幻冬舎としては、そして大崎梢としては、そこを承知していて敢えてこれくらいの「濃さ」で物語を収めているのかもしれません。
とどのつまり、私がここで書いているのは私個人の勝手な好みの話に過ぎないわけですしね。




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「機巧のイヴ 帝都浪漫篇」

 2020-02-08
シリーズの3冊目である、乾緑郎の『機巧のイヴ 帝都浪漫篇』を読了。
まずは、公式の粗筋を引用してみましょう。

浪漫とモダニズムの花咲く1918年。美しき機巧人形・伊武は、女学校の友人・ナオミとともに訪れた猫地蔵坂ホテルで、ある男と運命の出会いを果たす。恋の始まりを予感したそのとき、幸せな日常を引き裂く大震災が襲う。時代の波に翻弄され、廻り出す運命の歯車。そして物語は、大陸の新国家・如洲へ――。心を持たない人形が問いかける、愛とは、そして魂とは。日本SF小説史に残る圧倒的傑作。


この手のものの常として、それってちょっと言い過ぎなのではないのか、というような礼賛がされています。
とはいえ、粗筋を作っている編集者の側からすれば、それで1冊でも多く本が売れるのであれば多少の誇張はするでしょうし、それは当然だなとも思います。
けれども、(今回の『機巧のイヴ 帝都浪漫篇』がそうなっているかどうかはともかくとして)時々、これはさすがに石を投げつけられても文句を言えないレベルかもしれないと思えるものもありますよね、実際のところ。

と、まぁ、そんな余談はさておいて、本作を読んでの感想です。
関東大震災、甘粕事件、満州国建国といったことを架空世界に引き込んで、機巧人形である伊武の物語に絡めているストーリーは、事前に期待していたものを上回るほどの内容であったとまでは言いませんけれど、かなり面白くて、450ページ越えというボリュームを一気に読ませてもらいました。
前作から登場しているキャラクターも、今作で登場したキャラクターも、どちらもいい存在感を出していて、さすがだな、というところ。

解説の大森望も書いていますけれど、どうやら伊武を巡る物語は全3部作として、今回の『帝都浪漫篇』で完結となる模様です。
残念か残念でないかで言えば残念という気持ちもありますが……
しかし、あんまりダラダラと続けても作品の質を落とすだけですし、物語のまとまりとしても、ここで終わっておくというのは、そんなに悪いことではないと思います。

第二次大戦下の伊武や、終戦後の焼け野原と化した国土と伊武というものも読んでみたかった気もしますけれども、それは私の妄想レベルに留めておくことにしましょう。




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「剣樹抄」

 2020-02-01
冲方丁といえば、以前に水戸黄門で知られる水戸光圀を主人公にした、『光圀伝』という傑作を書いています。
その水戸光圀も大々的に登場してくる作品が、今回紹介する、昨年の7月に発売となった『剣樹抄』。

帯に印刷された公式の粗筋を引用してみましょう。

捨て子を保護し、諜者として育てる幕府の隠密組織“拾人衆”。これを率いる水戸光圀は、父を旗本奴に殺されてのち、自我流の剣法を身につけた少年・六維了助に出会う。拾人衆に加わった了助は、様々な能力に長けた仲間と共に、江戸を焼いた「明暦の大火」が幕府転覆を目論む者たちによる放火だったのではという疑惑を追うが――くじり剣法の六維了助、見参!


時代小説の書き手としてもすっかり定評を得た感のある冲方丁ですが、今回のこの作品は、大江戸諜報絵巻な活劇もの。
本作の主人公はあくまで了助であって光圀ではないのですけれども、もの凄く面白くてすっかりハマってしまった作品の登場人物がこうして別作品でも重要な役割で登場するというのは、いいですね。
スターシステムというのとはちょっと違いますけれど、こういうリンクが多くの作品で行われるというのも、なかなか面白いことになりそうな気がします。

作品中で大きな位置を占めている明暦の大火といえば、別名が振袖火事。
本郷丸山本妙寺での法会で焼かれた振袖が原因で発生したという俗説がありますが、実際は本妙寺だけではなくて小石川や麹町からも火の手が上がった、同時多発の火災だったそうですね。
この火災で江戸所の天守閣は焼け落ちて、以後、再建されることは無かったわけです。
そしてこの明暦の大火には以前から放火説というものも囁かれ続けていて、本作の構想のきっかけになっていると思われます。

そういえば『光圀伝』でも明暦の大火が非常に印象的に描かれていましたっけ。

なお、本作の物語はこれ1冊では完結しておらず、今でも雑誌『オール讀物』でシリーズの掲載は続いています。
実際、かなり面白い作品なのでそれも大いに納得です。
いずれ出るであろうシリーズ2冊目も楽しみでなりません。



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「明るい夜に出かけて」

 2020-01-25
久々に読んだ佐藤多佳子作品となったのが、『明るい夜に出かけて』。
いわゆる青春小説が上手い書き手という印象を持っている佐藤多佳子なので、今作もその前提で読み始めたのですが、その期待を裏切らず、なかなかにいい作品でした。

本作の主人公は、大学を休学し、親元を離れて横浜市金沢区でコンビニのバイトをしながら1人暮らしをしている青年。
彼はとある事情で女性に触れられることを極度に拒絶するようになっていて、バイトも、なるべく人が来ない夜間のシフトに入っています。
バイト仲間に対しても不愛想で接触を避ける彼ですが、いつの間にか、Youtube で「歌い手」として活動しているイケメンのバイトリーダーの鹿沢、深夜ラジオのハガキ職人で少しばかりピーキーな性格をしている女子高生の佐古田、高校時代のワケありな友人である永川の3人と交流を深めるようになっていきます。
本作は、その交流を通して主人公が精神的に回復し成長していく様を描く作品だと言っていいでしょう。

実は主人公も深夜ラジオにどっぷりとはまっていて、以前はハガキ職人として活動をしていたのですが、前述の「事情」が関係して投稿を辞めていた、というのが物語の展開上のカギとなっている本作。
大きな特徴は、実在の(既に番組は終わっているので「実在していた」と言うべきかもしれませんが)ラジオ番組、「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」(略してアルピーANN)を、主人公と佐古田の2名がお気に入りのラジオとして使っているところです。

私も浪人時代などに深夜ラジオを聞いていたことはありますが、それはオールナイトニッポンではなくて「さだまさしのセイ!ヤング」でした。
なので残念ながら、放送局も違いますし、ちょっとジャンルも異なっています。
しかし、リスナーが投降したネタを司会者が読むという形式は一緒ですから、本作におけいて主人公達が深夜ラジオというものに対して感じていること、思っていることの一部くらいは理解できたつもりです。
町中が静まり返った深夜にラジオを聞くことって、独特の高揚感がありますよね。

世間でいうところの「普通」からはどこか外れてしまった部分を(その登場人物によって程度の違いはありますが)抱えている面々が織り成していく物語は、どこかしら優しくて暖かい肌触りがあります。




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