「魔導の矜持」

 2018-02-17
「真理の織り手」シリーズの第3作である、佐藤さくら の『魔導の矜持』を読了。

デビュー作であった『魔導の系譜』、舞台を隣国に変えて描かれた第2作の『魔導の福音』に続く3冊目は、物語構造としてはかなりシンプルな作品となりました。
第1作目は作者の「これが書きたい」という気持ちが全面的に前に出ていて、また、デビュー作という事もあってか文章がこなれていないところもあり、少々の読みにくさがあった作品でした。
意欲や情熱を書き手が御しきれていなかったと言い換えてもいいかもしれません。
それが、学園青春モノの要素が加わった2作目で、その読みにくさが一気に薄れて、娯楽作品として単純に読みやすい、サクッと読み進めることのできるものになったなと感じたのですけれど、今回の第3作は、そんな第2作目を更に上回って読みやすい作品になっています。
それは、物語の紡ぎ手として 佐藤さくら の技術が上がっているというのもあるでしょうが、先にも書いたように、この『魔導の矜持』のストーリーがシンプルなものだからというのも、大きいのかもしれません。

では実際、本作はどういうストーリーだったのか。
ざっくり言ってしまえば、第1作目で発生した内乱以後、魔導士への迫害が深刻化・悪化しているラバルタで、村人による私塾の襲撃で師や学友を殺され追われる身となってしまった子供達が、何とかそれを逃れて落ち着ける地までたどり着く物語、という表現で、まずまず、過不足はありません。
ここに、内乱で負った精神的外傷に苦しむ元騎士とか、廃嫡されてしまった貴族の庶子等が絡んできて、話には厚みが増されていくのですけれども、基本は、迫害された魔導士候補の子供達の逃避行。その一点に絞って書かれています。

異能力保持者が迫害されるというのはSFやファンタジーに限らず、結構お馴染みの設定ですが、中世ヨーロッパの魔女狩りその他の史実があるだけに、異物(と感じる・信じる相手)を排除しようとする人の行動が生み出す愚かしさや悲劇といったものには、リアリティーがありますよね。
売れ行き次第でまだまだシリーズを続けるつもりはありそうなので、この物語、この対立軸を、これからどうしていくつもりなのか、第4作の発表を待ちたいと思います。



タグ :

「硝子の魔術師」

 2018-02-10
チャーリー・N・ホームバーグ の『硝子の魔術師』は、以前に紹介した『紙の魔術師』に続く3部作の2作目。

裏表紙の粗筋は「紙の魔術師になるべく、セイン師のもとで実習にはげむシオニー。セイン師と親密になる未来を占いで視たが、現状はただの師匠と実習生の関係だ。そんな彼女が見学していた紙工場が、何者かに爆破される事件が起きる。やがて、禁断の血の魔術の使い手たちがシオニーを狙っていると判明する。彼女の秘密の力を邪悪な魔術師たちに気づかれてしまったのか……? 赤毛の魔術師実習生が活躍する、〈紙の魔術師〉シリーズ第2弾!」となっています。

うん、確かにそういう内容になっているのですが……
しかし、これはアレですね、第1巻でちょっと気になっていた部分である、主人公のタチの悪さがちょっと表に出てきてしまっていて、そこがどうにも気になって、今一つ楽しく読めなかった感がありました。

狙われたのが自身である以上、確か異、主人公は一連の事件の当事者であるということは否定しません。
が、だからといってそれは、最高レベルの対策会議への出席を約束するものであるわけがなく、もちろんそこで話し合われた大量殺人犯である1級犯罪者への対応を彼女に教えなければいけない義務など、誰にもないわけです。
何しろそれは最高機密なわけですし、彼女はまだ魔術師として正式な試験に合格すらしていない、ただの甘ったれた見習いに過ぎないわけですから。

それを何を勘違いしているのか、これは自分の問題だから自分に情報を与えてくれないのはおかしいだの何だのとゴネた挙句に、自分だけで大量殺人犯に、しかも何の報告も相談も無しに勝手に1人で立ち向かいに行って友人は巻き込むよいうのは……
直接的ではないにせよ結果的にその友人が殺されてしまう遠因を作ったようなものになるわ、そのクセに最後まで本当の意味で反省したり公開したりしているように見えないわ、というところで、さすがにこれには、共感の「き」の字も抱けません。

それにしても、作者はこれでいと思っているのかね、という疑問すら湧いてきるくらい。

そこがあまりに大きいマイナスとなっていて、シリーズの評価を大きく引き下げてしまった感すら、あります。
一応、シリーズは残り1冊ですし、3月には発売になるということですし、出たら読むつもりではありますが、あまり期待はしないでいる方が、吉かな?



タグ :

1日も早い全快をお祈りしております

 2018-02-07
画集やコミックスの発売予定がズレましたし、連載は休載になりましたし、何か変なことになってなければいいなと思っていたのですけれど……

昨年、生誕50周年を迎えた長寿マンガ「超人ロック」の作者である聖悠紀さんが、慢性副鼻腔炎の手術の経過診断のために訪れた病院で急に倒れ、そのまま、心停止→蘇生→昏睡状態→心臓の外科手術というようなことになっていたそうです。

今は無事に退院されているそうですが、まだリハビリをしている段階で、体は思うように動かないとのこと。
なので、ロックの連載再開は、まだもうちょっと先になってしまうと Twitter でお詫びされていましたが、もちろんロックの続きを読みたい気持ちは私の中にありますけれども、何はともあれ、まずはお体を大事にされて、回復を第一に考えていただきたいと思います。

ご自愛ください。



タグ :

「ストーミー・ガール サキソフォンに棲む狐Ⅱ」

 2018-02-03
今回紹介するのは、全2巻の物語の後編にあたる、田中啓文の 『ストーミー・ガール サキソフォンに棲む狐Ⅱ』。

色々とあった為に吹奏楽部を退部して、改めて音楽と向き合い、ジャズの道を歩むことを志し始めた主人公の典子。
とはいえ、まだまだジャズに関する知識も何もない彼女は、個人レッスンを受けるなどして技術と知識を得つつ、メンバー募集をしていた大学生達のジャズトリオにも参加するなどして、その腕を磨き、才能を徐々に開花させていくのですが……
そこに、前巻において示唆されていた彼女の出生の秘密、母親と父親の過去が絡んできます。

ここをあんまり具体的に書いてしまうと、ネタバレもいいところな感じになってしまいますから、この辺りで止めにしておきます。
が、これがなかなかシビアでスリリングなものとなっているので、物語はかなり派手に盛り上がりを見せることに。
1冊目の冒頭辺りを読み始めた時には、まさかこういう方向の話になるとは思っていませんでしたけれども、いや、これは面白い。
読み始める前に予想していた、期待していた以上に良かった、と言い換えてもいいでしょう。

正直なところを書かせてもらうと、このシリーズ、第1冊目が文庫になった時に購入しておきながら、何となく、そこまで面白くないのではないかなというような気がして、読むのをずっと後回しにしていた作品だったりするのです。
そうこうしていたら、完結となる2冊目も1年前の昨年2月に文庫になってしまいました。
これはさすがに、そろそろ読まなければならないかと、積読の山から掘り出しつつも……
それでも実際に手に取るまでに、そこから更に1年を要してしまったのですが、これくらい面白いのであれば、もっと早く読んでいても良かったかも。
うーん、私の勘も、鈍ったかな?

まぁ、読みたくなった時が読むべき時、というのが昔から現在まで変わらぬ私の基本スタンスですし、最終的にはこうしてきっちりと読んで楽しんでいるのですから、とりたてて構わないのですけれども。



タグ :

「図書迷宮」

 2018-01-27
巻末のあとがきにて作者曰く、「銀髪不死ロリババア結婚してくれ」「遺跡書庫に住みてェ永遠に読書してェ」「詠唱叫び交わす魔法戦闘、控えめに言って大好き」「二人称でメタ小説書きたいんじゃ」「アルテリアの肋骨ぺろぺろ」「過去の絶望を書き換える/乗り越える物語を書きたい!」という欲求を全て注ぎ込んだという、十字静の『図書迷宮』。
昨年10月の発売直後からすぐに、かなり話題になっていたことは知っていたのですけれども、ぱっと見、私の好きそうなネタの作品だなと思いつつ、実際に読むのに9ヶ月を要したのは、まぁ、いつもの私の天邪鬼的な性格の所為です。

作者はこれがデビュー作であり、どうやら本作は改稿に3年を要したらしく、実際、かなり拘って書かれたということが随所から感じられる力作になっていると思います。
500ページという厚さを誇りながら、読み始めると案外とサクッと読み切れてしまうのは、おそらく、ベタ過ぎるくらいにベタなキャラ設定とか、(意図的にそうしたのだろうとは思いますが)えらく軽い語り口とか、そういう辺りが原因でしょう。

幾つかのレビューで、本作の一番の問題点は冗長であること、長すぎることであり、無駄を削る作業を行えばもっとコンパクトにできたはずだ、という意見を目にします。
確かに、そういう側面があるのは否めないと私も思います。
とはいえ個人的には、この冗長さも含めて本作の「味」だなと感じているので、まぁ、ここは個人の嗜好の問題になるでしょうか。

私が本作に感じる問題点というのは実はそれとは違う場所で、つまるところ、物語の開始から終了までに作中で流れた時間が短すぎる、ということ。
つまり、展開されているストーリーの流れを考えれば、これだけの出来事が、たったそれだけの時間で起きるというのに、さすがに無理を感じてしまったのです。
一応、作中に登場しているガジェットの機能等で、ある程度は理屈が付くのですけれど、それにしても、さすがにこれは無い、かなぁ。
スピード感重視ということなのかもしれないとは思うものの、それはちょっと無いのではないか、という違和感は拭い去れませんでした。

と、まぁ、そういう大きな欠点はありつつも、控えめに言って、本作がかなりの意欲作であることは確かなことです。
冒頭に書いたように、それは作者が自分のやりたいことを追求した結果であるわけですが、デビュー作でこれをやってきたという、その一点だけでも高評価に値するのではないかという気がします。
ラノベ業界の通常の流れを考えれば、2作目、3作目にこれと同じような時間、労力をかけられる可能性は低いでしょうし、その意欲は素晴らしい。
粗のあるところは、デビュー作だから仕方ない、というようにも考えられます。
なので、文句は書きましたが、なかなか刺激的で面白い作品として、なかなかの高評価を付している、ということは、最後にお断りしておきます。
興味のある人は、読んでみて損はしないのではないでしょうか。

これは、この次のデビュー第2作目にどのような作品を発表してくるのか、ちょっと注目しておくべき作家かもしれません。
ただし、本作をシリーズ化することには、個人的には賛同できません。
こういうネタは単発で終わらせてこそであり、シリーズ化はむしろ作品の質を落とすことになるだけだと思います。


タグ :
≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫ 次ページへ ≫