「卒業のカノン 穂瑞沙羅華の課外活動」

 2017-11-18
デビュー作である 『神様のパズル』 から続いてきた「穂瑞沙羅華シリーズ」の最終巻にあたるのが、機本伸司の 『卒業のカノン 穂瑞沙羅華の課外活動』 。

ヒロインの穂瑞沙羅華がシャーロック・ホームズ、その助手役にして主人公の綿貫基一、愛称「綿さん」がワトソンであるのは言うまでもないわけです。
が、シリーズ完結を記念して機本伸司が後書きにて行った種明かし……というか、ネタバレにて、それに加えて、他にも色々と、ホームズ関係を中心にしたネーミングのお遊びがあることが書かれていました。
その中にはこれまでシリーズを読んでいて既に「これはアレなんだろうな」と分かっていたものがありましたが、その一方で、なる程これもネタだったかと教えられたモノもあります。
そういうことを知っていようと知っていまいと、作品を読むうえでは特に違いは無いのですけれども、まぁ、作品を読む上での彩りというか、オマケ部分がちょっと増える、という効果はありますね。

さて、そういう前置きはさておき、今回の 『卒業のカノン』 です。
今回のエピソードに盛り込まれた科学・物理的なガジェットは、宇宙太陽光発電。
衛星軌道上に太陽光発電衛星を設置し、そこで発電した電力を、レーザー波やマイクロウェーブの形で地上に送信する、という、アレです。

カリフォルニア州沿岸と東京湾の2か所に巨大な受電設備を建設し、宇宙太陽光発電を事業として行おうというアルテミSS社から、沙羅華に対し、彼女を始めとする遺伝子操作された天才児を生み出してきた元凶である、ゼウレト社CEOシーバス・ラモンの警護要請が来る、というのが、ストーリーの出だし。
詳しいことはこれから読む人の楽しみを奪わない為に書きませんけれども、沙羅華と綿さんのいつものやりとりを堪能できる内容で、シリーズをここまで追いかけてきた身としては、意外性は無いものの、望んでいた、期待していたものを読ませてもらったという感じです。

そして、シリーズ最終巻ということですので、ラストには……っと、これもまた、これから読む人のお楽しみですね。

これでシリーズ完結というのはちょっと寂しいですけれども、シリーズの幕引きにはふさわしい内容だったと思います。
面白く読ませてもらいました。


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「ジハード6 主よ一握りの憐れみを」

 2017-11-11
聖地イェルサレムをすぐそこに望むところまで迫った第3回十字軍を率いる獅子心王リチャードと、その圧倒的な軍事力からイスラムを守ろうとするヴァレリーことアル=アッディーンの最後の対決を描く、定金伸治の『ジハード6 主よ一握りの憐れみを』。

実際には、ここまで物語の中で次々と登場した様々な人物、例えばロビン・ロクスリーであり、ウィルフレッド・アイヴァンホーであり、東の草原から流れてきた「蒼狼」(もちろん、後にモンゴル帝国を築き上げる彼のことです)といった面々が色々と動き回っているので、実際の物語はヴァレリーとリチャードの知と力のぶつかり合い、という感じには、全くなっていません。
正直、サービス精神旺盛に、同時代に活躍した架空の人物や実在の人物をどんどん登場させて、収拾がつかなくなってしまわないだろうかと危惧もしていたのですけれども、まずまず、上手い具合にまとめてきたのかな、という感じです。

とはいえ、さすがに最後になって急に話を動かし過ぎだろうという部分もあって、その辺はもうちょっと無理なくできなかったものかなとも感じました。
前振り的な伏線が全く無かったわけではないし、やり様はあったかと思うのですが……
まぁ、それは物語が完結して、更に15年程が経過している段階で読んでいるからこそ全体を見返してそんな風に考えられるのであって、実際にこの作品を手掛けていた当時の作者や編集者には、そこまでは無理だった、のかもしれませんが。
何しろ、足掛け11年に渡って発表されてきた作品だといいますしね。

ともあれ、物語はこれで、堂々の完結を迎えます。

史実に従えば、第3回十字軍を迎え撃ったアイユーブ朝のスルタン、サラディンが亡くなった後は誰が後継者となるのかを巡ってイスラム世界は10年ほど混乱し、それを治めて次のスルタンとなったのが、サラディンの弟だったアル=アーディルでした。
それをこの『ジハード』の世界に引き寄せて考えるならば、ラストシーンでサラディンの末妹であるヒロインのエルシードと共に東方に旅立ったヴァレリーがシリア/エジプトに戻ってきてスルタン位に就いた、となるでしょうか。
アル=アッディーンがサラディンの「弟」である、というのも、この場合はポイントですよね。
つまり、ヴァレリーとエルシードは……と解釈できるわけです。

なお、アル=アーディルの次にスルタンになったのは、彼の息子であるアル=カーミル。
この辺りも、本作を読んだ身にすれば、色々と妄想の膨らむところです。

そういう余地が残っていて、かつ、あれこれ想像したくなってくるというのは、つまり、それだけ本作が面白かったということに他ならない、と言っていいでしょう。
読んでいて、作者の男女観にちょっと首をかしげたくなるような部分もありましたが、まぁ、それはそれ。


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「ゴーストケース 心霊科学捜査官」

 2017-11-04
戦国武将の名をペンネームに使っている柴田勝家の、霊というものの存在が科学的に証明されている世界を舞台にしたミステリーが、『ゴーストケース 心霊科学捜査官』 です。
この作品の主人公は、高知生まれの陰陽師。
扱うのは幽霊や祟りといった案件という設定で、自殺した地下アイドルの恨みに端を発すると思われるアイドルファン等の連続自殺事件の顛末を描く作品です。

これまでに読んだ作品とは思いきり傾向を異にした作品ですが、地下アイドル、という題材も、秋葉原の戦国メイド喫茶に通っているという彼の日常を考えれば、自分に馴染みのある(つまり、知識がある)ところで勝負してきたということで、おかしくはない、ということになります。
まだまだ新人の作家、しかもどうやら修士論文と並行して執筆したりもしていたらしい作品であれば、そういう、自分自身にとっては手堅いところを攻めてくるというのは、むしろ正しい姿勢だと言えそう。

で、肝心要の内容なのですが、ミステリーとしての出来がどうこうというのはさておいて、キャラクター小説としては、そのお約束な部分をしっかりと押さえているという意味で、まぁ、及第点と言えます。
おそらくはシリーズ化を見据えての事なのでしょうけれども、ちょっと主張が強めのキャラが多くて、その所為でとっ散らかっている印象はありますが、それが致命傷になっているという程ではありませんし、これくらいはスルーしておいていいレベルのことでしょうか。

ただ、1つ大きく気になったのは、主人公の話す高知弁。
要するに、方言を使わせれば簡単にキャラ付けができますし、その方向付けが合っていなかったわけではないものの、ちょっとこれは安易に過ぎないか、というのが、引っかかっているのです。
美少女キャラの語尾を変なものにするのよりはマシですが、方言の必然が、ちょっと薄すぎます。
そこが、いかにも残念。

とはいえ、発売時に見落としていた柴田勝家作品を見つけて読めたのはちょっと嬉しかったので、まぁ、それでもいいかな?


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「ビビビ・ビ・バップ」

 2017-10-28
奥泉光の 『ビビビ・ビ・バップ』 は、「本館」の「読む」でも紹介している 『鳥類学者のファンタジア』 主人公である池永霧子(本名は 希梨子)の曾孫であり、同じくフォギーという芸名を名乗ってジャズピアニストとして活動している木戸桐が主人公の、660ページというボリュームを誇るSF作品。
なるべく軽い紙を使おうとしたのでしょう、そのページ数に比して手に持った感じはまるで重くないのですけれども、見た目のインパクトはかなりのもの。
「これ、人を殺せるんじゃないの」というくらい、鈍器として色々とつかえてしまいそうな見た目の1冊です。

とはいえ、装丁のデザイン、表紙のイラストはキャッチーでポップな、なかなかにハイセンス。
私はジャズにはそこまで詳しくないので気が付かなかったのですが、どうやら、作中でも重要な位置を占めるロサンゼルス生まれのバスクラリネット、アルト・サックス、フルート奏者、エリック・ドルフィーの、亡くなる直前に行われたライブの様子を収めたライブアルバム、『Last Date』のジャケット写真のパロディーになっているようです。

これがどういう作品なのかを簡単に説明しようとすると難しいのですが、とりあえず、帯にある惹句を引用すると……
「人類を救うのはアンドロイドの子猫!?女性ジャズピアニストが世界的ロボット研究者から受けた奇妙な依頼。それが人類の運命をゆるがす事件の始まりだった。AI技術による人間観の変容を通奏低音に、稀代の語り手が軽やかに壮大に奏でる近未来エンタテインメント小説!」
「電脳空間(サイバースペース)の架空墓(ヴァーチャルトゥーム)、デジタル人格としての永遠の生命、密室殺害事件、天才工学美少女、機械分身(メカニカルアヴァター)、電脳ウイルス大感染(コンピューターウイルスパンデミック)……21世紀末の超知能社会を奥泉光が描く!」
と、なります。

つまるところ、アンドロイドやAI、人の記憶パターンや人格をコピーして電脳世界に再現するデジタルツインズ等の題材を使って、ネットを介して繋がる電脳スペースに社会のかなりの部分を依存してしまっている人類を襲う大災害を描いている作品、と言えば分かりやすいでしょうか。
かなりスケールの大きな話で、かつ、この物理的な厚さですから、仮にこれを読むのは大変そうだなと、店で実物を目にしたならば思うかもしれませんけれど、そういう心配は、あまりしなくていいでしょう。
本作、実は、かなり読みやすいのです。
その読みやすさの一番の原因は、本作における奥泉光の文体。とにかく饒舌で、軽快なテイストが持ち味で、それは彼の他作品でも感じていたことではあるのですが、今回は特にそれがハマっていると感じました。
また、扱っているテーマの深刻さに対して物語は基本的にドタバタコメディー的な色味が強くて、それもあるから、必要以上にシリアスになることなく気楽に読めるようになっている、とも言えるでしょう。

主人公の関連性も含め、本作は、おそらく『鳥類学者のファンタジア』の続編という扱いにしても差し支えないのでないか、と思います。
いい作品でした。



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「黄昏のブッシャリオン」

 2017-10-21
光背を背負った仏像の形をしている巨大なロボットが格闘技的な構えをしている表紙からして、どこからどう見てもネタ小説のような見かけをしているのが、碌星らせん の『黄昏のブッシャリオン』。

本作の始まるのは未来の関東、おそらくは現在の東京西部、、立川辺りです。
石油等の化石燃料、あるいは原子力、太陽光や風力等の自然エネルギー、そういった物理的なものに頼るのではなく、人の精神の力、その中でも人の「善行」を源とし、衆生が功徳を重ねることでその獲得エネルギーが増加していく「徳エネルギー」が発見された。
さらに、高められた徳の力がマニ車を回すことで永久的にエネルギーを得ることができる機関、徳エネルギーを通常の動力に変換するマニタービン(あるいは徳ジェネレーター)が発明されたことで、そんな無尽蔵の永久機関の開発によるエネルギー革命で平和に包まれた黄金期を迎えながらも、その理想社会を「徳カリプス」と呼ばれる大災害が襲い、人類社会が崩壊してしまう事態になった、というのが本作の基本設定です。

「徳カリプス」、それを少し具体的に説明するならば……
余りに大量の徳がポテンシャルとして蓄積されたことが原因なのか、予想されざる徳雪崩が起きて人々に強制成仏、連鎖的集団解脱現象が発生してしまっというものになります。
そのような黄昏の時代では、本来は人類へ奉仕し、その最大幸福を求めるべく作られた機械知性達が、人の幸福は功徳を高めて解脱することにあるという判断のもとに人々を強制解脱させようと襲ってくるようになっています。
この、荒廃した世界を舞台に、物語が始まります。

以上のような、悪ノリと冗談で作られたとしか思えないような設定の上で描かれるストーリーは、しかし、実はかなりハードでシリアスなディストピアSFだったりするところが、本作のいいところではないでしょうか。
「サイバーパンク」、「スチームパンク」というのは、それぞれSFのジャンルの1つですが、作者は本作について、「徳パンク」を自称しています。
採掘屋たるガンジーとクウカイの2人が、徳エネルギーを求める採掘活動の中で、肉体を舎利バネスティックによって強化した女性、舎利ボーグのノイラ等と出会う、何気に深いテーマを内包した物語は、この1冊ではまだまだ序盤もいいところまでで終わり。
ここから彼ら、彼女らがどうなっていくのか、大いにわくわくさせられてしまいました。と、いったところで、引き続き続巻が出ることを期待しつつ、今回の紹介文はこれまでとしておきましょう。
基本設定の特異さばかり説明している気がしないでもないものの、そこに興味を抱いて本作に手を出してみようと考える人が増えるのであれば、それはそれでいいかな、と。
実際に読んでもらえれば、本作のガチさは伝わると思いますし。



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