「恋するタイムマシン 穂瑞沙羅華の課外活動」

 2017-08-19
ハルキ文庫から出ている機本伸司の『恋するタイムマシン』は、「穂瑞沙羅華の課外活動」シリーズの4冊目。
これを、「穂瑞沙羅華の登場してくる小説」という条件に変えてカウントするならば、デビュー作の『神様のパズル』も含めて5冊目。
スピンオフ的作品の『神様のパラドックス』は、穂瑞沙羅華が直接的に活躍する話では無いですが、これも含めると6冊目、ということになります。

キャラクター造形の偏り……というか、作者の好みなのかもしれませんけれども、これはちょっと実際にはいないだろうというようなタイプ、感情のあまり感じられない会話文というような、私が機本作品に常々感じている違和感というか欠点は、今回も同じ。
まぁ、それもこのシリーズに限って言えば、穂瑞沙羅華というヒロインがそもそもそういう風になってしかるべき生まれ育ちを持っているキャラなので、そこにあまり違和感を感じないでいられるのですけれど。

さて、今回の『恋するタイムマシン』ですけれども、扱っている題材は、まぁ、タイトルにそのまま表れていますね。
量子コンピュータの開発者である天才女子高生の穂瑞沙羅華が営むコンサルタント業への依頼は、両備という若き研究者がダークマターの研究を隠れ蓑にして進めようとしている、ワームホールを使ったタイムマシン開発を、何とかして断念させてほしいというもの。
そこに、理論物理学の天才でありながら、いやむしろ、早熟の天才であるが故に、人の心の機微が分からない沙羅華が、自分では理解できない「愛」というものについて頭をひねる展開を加えて、いつも彼女に振り回されている主人公の綿貫との関係にも、少しの進捗が出てくるという内容です。
これまでシリーズをずっと読んできた身には、なかなか嬉しいというか、楽しめる作品になっていたと思います。

正直、文系人間な私には、専門的な記述部分は、10の内の半分くらいしか理解できていないのですが、そこは雰囲気で読み流せば問題ありません。
このシリーズは今年5月に最新刊にして最終巻が発売されているので、それも、早めに読み始めるとしましょう。



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「モノクロの君に恋をする」

 2017-08-12
都内の名門私立大学を舞台に、世間からのはぐれ者的な、ちょっと、いや、かなり個性的なメンバーが集まったマンガ研究会に入会することになった新入大学生の小川卓巳を主人公にした作品が、坂上秋成の「モノクロの君に恋をする」。
これはつまり、周囲に馴染めなかった過去を持つ男女が織り成す青春小説、ボーイ・ミーツ・ガールな青春小説であり、要するに私の大好物、ということです。

この作者の作品を読むのは今回が初めてですが、なかなかいい感じに青い春を描けているのではないでしょうか。
こういう作品の場合は、いかにして読者に主人公への共感を抱いてもらうかが1つのカギになる、と私は思うのですけれども、その点では、まずまず上手いことできていた、と言ってもいいかもしれません。
ただしこれは、私自身も大学時代に漫研に所属していて(ここまで変人揃いではなかったですけれど)、それなりに大学生活をエンジョイしていたという経験を持っているし、何よりアニメだのマンガだのが好きだということもあるから、その下地があるが故にそう感じることができているのかもしれません。
なので、そういう経験が無い人までがそうなのかは、保証できません。

あとは、アレですね。
最近こういう題材を扱った作品で散見させられるのが、そのストーリーだったり作品性だったりに特に言及することなく、他のマンガ作品のネタを作中に堕してくるというのは、ちょっとまずいんじゃないかな、と思います。
ここで採り上げられている諸作品について、私はそこそこ知識を持っていますから、「ああ、これはそういうことね」と納得することもできますけれど、普段そこまでマンガに親しんでない人とか、リアルタイムではない過去の「名作」にまで手を出して楽しもうというところまで踏み込んでいない人とか、そういう人に対して、もうちょっと親切でもいいかな、と。

まぁ、でも、面白ければそれでOK、なんですけどね、突き詰めてしまえば。
そう考えれば、これはこれでいいとも言えますが、どうせなら、もっと一般への訴求力も強くすればいいのにな、と思うんですよね……。
せっかく基本的な面白さがあるのですから。


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「はるか遠く、彼方の君へ」

 2017-08-05
デビュー作の 『いまはむかし 竹取異聞』 は結構良かったな、という記憶から、ならばこれも、いつかタイミングを見て読んでやろうと思って積読の中に入れていたのが、安澄加奈の 『はるか遠く、彼方の君へ』。

現代の高校生3人が源平合戦の時代にタイムスリップして源義経や静御前と行動を共にする、という粗筋は、言ってしまえば結構ありふれたものです。
そこに独創性や新鮮さを感じることは、正直、できません。

そうであるならば、どういう料理法、味付けをそこに施してくるかが作者の個性を出す為には重要になってくるところですよね。
で、ついついそんなことを思いながら読み始めたら、どうにもそれが気になって仕方が無いという状態になってしまって、本作を読んでいる間、終始、そこがどうなっているのかと、そればかり考えて読んでいたような気がします。
つまりは作者にとっては、あまり嬉しくない読者だということなのかもしれません。
私としても、最初に余計な雑念が入ったことで、物語にそこまで入り込むことができなかったという点で、ちょっと残念なことでした。

それにしても、前作を読んだ時にも思ったのですが、安澄加奈という人は、おそらく荻原規子の一連の作品のファンなのでしょう。
読んでいて、キャラクター設定や配置、物語の持って行き方とか、そういうところに、萩原作品の影響が読み取れるような感じがするんですよね。
それが悪いということでは別になくて、誰かの影響下にあるというのは、いつまでもそこから脱することができないでいると単なる亜流で終わってしまう恐れも出るとはいえ、基本的には、若い作家の在り方としては、普通に良くあることです。
完コピのようなことをやられてはさすがにアレですが、安澄加奈の場合、デビュー作も本作も、さすがにそこまでのことはありませんから、問題無し、と思います。

基本的に善人ばかりが出てくるようなところは、ちょっとアレではありますが、児童文学の延長上にある作品だと思えば、これはこれで、特にアレコレ言うようなことでもありません。
恋愛要素の入れ方も程良かったですし、文庫で540ページほどというボリュームながら、サクッと、すらっと読み切れたのも、いいですね。
軽めの歴史ファンタジーとして、まずまず面白く読ませてもらいました。



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「オウリィと呼ばれたころ ―終戦をはさんだ自伝物語―」

 2017-07-29
4月15日に紹介した 『コロボックルに出会うまで 自伝小説 サットルと「豆の木」』 で描かれたより前の時代を題材にした、佐藤さとる の 『オウリィと呼ばれたころ ―終戦をはさんだ自伝物語―』 を読了。

『コロボックルに~』も、今回紹介する『オウリィと~』も、どちらも作者の人生を綴った自伝作品になります。
が、前者は形式上、主人公の名前を変えるなどしてフィクションの体裁をとっているのに対し、後者はあくまで徹底して自伝、という形を守っているのが、それぞれの相違点でしょうか。

なにしろ基本、児童文学の文法が身に沁み付いている人なので、今回も文体などはそれに沿っている感じで、小説の形式にしたからといってあれこれと心理描写をしたり、細かい描写を加えたりをしていないということもあって、ちょっと、要約されたダイジェスト版を読んでいるような気になってしまうようなところがあるのも、両作品とも共通しています。
ただし、『コロボックル~』 に比べると、今回の 『オウリィと~』 はダイジェスト色が薄めに感じられるのは、フィクション性の有無と逆になっていますね。

これはつまり、ほぼ同じ語り口とペースであっても、フィクションであることにすると、その密度に物足りなさを覚えるというのが、私が「物語」に求めているものを透かしているようで、何となく面白いところです。
せっかくの自伝物語であり、ストーリーとして考えても、それなりのドラマチックさもあるのだから、そこをもうちょっとどうかすれば、と思ってしまうのは私が青春小説的なものを好きだからそう考えてしまうというのはあるでしょう。
北杜夫の 『どくとるマンボウ青春記』 とか、畑正憲の 『ムツゴロウの青春記』、高野秀行の『ワセダ三畳青春記』 辺りは、広く読み継がれるべき傑作だと思っていますし。

とはいえ、この『オウリィと~』については、これくらいドライに書いてあるからこそ「味」があるのだ、ということも言えるようにも思えます。
程よい肌触りになっている、と言い換えてもいいかもしれません。

いずれにせよ、若干タイプが異なるのというのはありつつも、この 『コロボックルと~』 と 『オウリィと~』 の2つの作品は、2つでセットなのだと考えて連続して読むべきですね。
できれば、私がやったのとは別の順番で。その方が、刊行順でもあり、内容の時系列にも沿うことになりますから。




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「血と霧2 無名の英雄」

 2017-07-22
多崎礼が、以前から一度書きたいと思っていたという、ハードボイルドな作品。
満を持してそこにチャレンジした作品の後編にあたるのが、今回、「本館」に先がけた読了本紹介に選んだ、『血と霧2 無名の英雄』です。

端的に言って、非常に面白く、優秀なエンターテインメントでもある作品でした。
が、ここでその内容について何か書いてしまうと、この作品をこれから読もうという人にとって興醒め極まりないことになってしまいそうなので今回は避けておきます。

一言でコメントするならば、これは、最後までハードボイルドであったと同時に、深く一途な愛の物語であったと言えるでしょう。
この、決してハッピーエンドとは言えない終わり方をどう受け止めるかは、読者それぞれによるところではありますが、私としては大いに満足のいく内容だったと言えます。
それに、ハードボイルドに攻めるのであれば、むしろ当然こうなるべきだとも思うのです。
なるべくしてなる、というか、このテーマでこういう展開であれば、これしかない、という感じ。

全6話で構成されている物語は、もっと丁寧かつ細かく描いて行こうと思えば、それはそれでできたのでしょう。
けれども、むしろ、必要なことのみを絞って描いてこのボリュームに抑えたことで、ハードボイルド的なストイックさが増したようにも思えます。
それは、本作の場合にはむしろプラスに働くことですよね。

ちなみに、そんな本作は読者にもかなりウケが良かったようで、(元々の部数がそれほど多くなかったということもあるかもしれませんけれど)結構順調に重版もされたようです。
ずっと作品を追いかけている好きな作家だけに、新たな出版社、新たなレーベルでの仕事で、新たな読者も開拓できていればなと思うのですが、さて、どうなっていますでしょうか。
重版こそがその証である、ということなら、何より嬉しいですけれど。

ともあれ、早川書房的にもこのセールスは満足の行くものであったというのは、おそらく間違いないでしょう。
となれば、全3部作として構想されているという本作の第2部、第3部の刊行も大いに期待されるところになります。
まぁ、一度に一作品にしか手を付けれないという多崎礼が、今は別の作品を書いている途中ですので、第2部が出るとしても、そちらが終わってからになるのは、ほぼ確実ですが。

その場合、 それまで早川書房と読者が待っていてくれるか、例えば1年後、2年後に第2部が出ることになったとして、それでも読者がついてきてくれるのか、どれがちょっと心配にもなりますけれど、ここは、なるようになる、と思うしかありませんね。





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