「魔導の系譜」

 2017-03-25
第1回創元ファンタジイ新人賞優秀賞受賞作であるという、佐藤さくら の『魔導の系譜』を読了。

本作、この賞の審査員の1人だったらしい三村美衣の解説文によると、主に異世界を紙面に幻出させる表現力という点でふさわしくないという意見もあったのを、そこを全面的に改稿するという条件を付しての受賞となったのだそう。
つまり、そうして手を入れた後に出版されたのが、つまり本書ということになるわけですが……
投稿版は当然読むこともできないので、その辺りがどのように変わったのか、というようなことは分からないながら、とりあえず、この発売版では特にそこで気になるようなことはありませんでした。
そこは、作家本人と担当編集とが頑張った結果ということでしょう。

魔導士が虐げられている国で、絶対的な知識を誇りながらも、根本的な実力不足により三流の烙印を押されて田舎で私塾を開いている魔導士レオン。
そんな彼の元に、被差別民族の出身で幼い頃に野盗に家族を殺されて、潜在能力は桁違いながらも魔導を学ぶことを拒み続けてきた少年ザクスが預けられることから物語は始まります。
端的に言えば、いかにも東京創元社から出された作品という感じの、渋い王道ファンタジーですね。
ライト要素は、ほぼ無いので、本格ファンタジーが好きな人でなければ手に取りにくいだろうなとは思いますが、そこそこ、楽しませてもらいました。

活字が小さい上に全470ページというボリュームで腰が引ける人もいるでしょう。
とはいえ、読み応えがあると同時に、最初から最後まで一気に読ませる程度の魅力はあるので、そこは安心して手に取ってみてください。

ただ、あらかじめ言っておきますが、本作は終わり方にちょっと難ありです。
破綻しているとか、物語としてどうかしているとか、そういうことではないのですけれども、正直「えっ、そこで終わり?」と感じてしまうのは否めません。
まぁ、作品のテーマはあくまでもレオンとゼクスの師弟関係にあるのだから、そこが描けていればいい、とするのであれば、これはこれで問題無しなのですが……
個人的には、そうだとしても、もう少し色々と描写をしておいてほしかったと感じました。

幸いにもこの第1作がそれなりに講評だったようで、シリーズ第2巻が既に発売されていますから、そちらを読めば、この不満は多少、解消されるのかな?



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「波の手紙が響くとき」

 2017-03-18
以前紹介した 『筐底のエルピス』 が非常に面白かったので、これは作者の別作品も読んでみなければなるまいと買ってみた オキシタケヒコの 『波の手紙が響くとき』 が、今回紹介する、読了本。

オーディオルームの設計やメンテナンスを主要業務とする武佐音響研究所に持ち込まれる様々な依頼を、天使の声帯を持つ所長の佐敷裕一郎、口の悪い音響技術者の武藤富士伸、雑用係の鍋島カリンという3人の所員が音響的な知識や技術を駆使して解決して行く物語で、短編・中編合わせて全部で4つの章からなっています。
この内、第1章はSFというよりもミステリーという印象の強い話で、なんでこれが「ハヤカワSFシリーズ Jコレクション」というレーベルから出ているのかと首をひねったりもしたのですけれども、その後、物語を読み進めて行くにつれ、なる程、これは確かにSFであるな、と納得させられました。
登場してくるキャラクターが多少ステレオタイプに見えるのがちょっと気になるところですし、今一つキャラ立てできていないところもあるのですが、概して、いい感じの関係が描かれていたと思います。

私は少々度をこした音楽好きでコレクターですが、それだけに、音楽が(更に言えば「音」が)人に及ぼす影響というものは常々実感しています。
自分でも、テンションを上げる為にはこういう音楽、落ち着いた気分で疲れを抜きたいならこういう音楽、というような、いわばお約束になっている、定番のミュージシャンや楽曲もあります。
ですので、本作の後半の展開は、フィクションはフィクションとして、あながち無茶苦茶な展開でも無いな、という、リアリティーを感じさせるようなものだと私は受け止めました。
そういうところが、SF的であり、本作の面白かったところです。

音楽が人の感情に働きかけるモノが大であるならば、「いずくんぞ〇〇に対してをや」ということですよね。



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「ビブリア古書堂の事件手帳7 ~栞子さんと果てない舞台~」

 2017-03-11
一般的な知名度も高い人気シリーズの本編最終巻、三上延の『ビブリア古書堂の事件手帳7 ~栞子さんと果てない舞台~』が、今回、「本館」に先がけて紹介する読了本として選んだ1冊。
非常にベタで、申し訳ありません。

そんな本作は、シェイクスピアに関わる古書を題材にしたエピソード。
これまでの6冊で物語縦軸になっていた、篠川栞子を巡る家族の話、母や祖父母の話に、今回で区切りが付きます(なぁ、シリーズ本編の最終巻ですからね)。
もちろん、主人公である五浦大輔との関係についても、しっかりと収まるところに収まっているので、そこは安心を。

シリーズの第1巻が出たのは2011年3月のことでしたから、それからおよそ6年。
これを7冊をかけて物語が終わるまでの期間として長いと見るか短いと見るかは人それぞれでしょうが、とりあえず言えるのは、その間しっかりと楽しませてもらえたということ。
第6巻とこの第7巻の刊行期間がちょっと開きすぎたような気もしますが、それも物語をまとめる為だったと思えば、そこまで文句をどうこうするようなことでもありません。
特に何か大きなイベントがあったりもせず、意外とまったりとした感じでエピローグを迎えたような印象があるのは、逆にこのシリーズらしくて良いのではないでしょうか。

面白かったです。

なお、冒頭にも書いたように、これにてシリーズ本編は完結となるのですが、作者の後書きによると、これでシリーズとお別れということでは無くて、引き続き番外編の執筆が行われる模様。
第1巻からずっと読ませてもらってきた読者としては、まだまだ彼等に会えるというのは嬉しい限りです。
まぁ、あくまで番外編扱いのものである以上、そんなに長くは続かない……せいぜい、1冊か2冊くらいなのでしょうけれども。

大輔の一人称視点で語られるという制約があったことから、これまでは描けずにいたエピソード。
登場人物それぞれの前日譚や後日譚を書こうと思っている、ということなので、ならばああいう話も読めるのではないだろうか、こういう話はどうだろうか、と、色々と、想像という名の妄想は膨らみます。
これは、ちょっと楽しみ。



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「シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱」

 2017-03-04
今回、「本館」に先がけて紹介する読了本に選んだ高殿円の 『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』 は、ホームズ作品の時代設定を現代に変えて描くという趣向のドラマ 『SHAROCK』 が好きな作者が、その女性化版を書こうと思って執筆した作品だとのこと。

第二次アフガン戦争帰りだったジョン・ワトソンは、タリバンとのアフガニスタン紛争帰りの女医ジョー・ワトソンになりましたが、負傷してロンドンに帰ってきた後に知人の紹介で、警察からの捜査依頼を受けて犯罪捜査などを請負う「顧問探偵」をやっているというシャリー・ホームズと同居をすることになるという流れは、本家のシャーロック・ホームズをなぞったもの。
そうして知り合ったシャーリーが、スコットランドヤードからの依頼で事件の謎を解決していくところをジョーが見る、というのが、今作の内容です。
これは、タイトルからも一目瞭然のように、ホームズシリーズの処女作である「緋色の研究」へのオマージュになっていますよね。
そこに、どのようにオリジナリティーを加えていくかが、こういう作品の見所の1つでもあるでしょう。

ラノベっぽさが前面に押し出されているのが本作の特徴で、発表媒体こそ、雑誌 『ミステリマガジン』 というガチのミステリー王道を行っていますが、内容的にはかなりラノベチック。
それは本作が、あくまで 『SHAROCK』 の女性化版であって、コナン・ドイルのホームズ物の女性化版ではない、というところからくるテイストの違いとか、シャーリーが、作中でまさに開催されている最中の2012年ロンドン五輪において、馬術競技で金メダルを獲得していたりすることとか、シャーリーやホームズの抱えている過去とか、そういうところのアレンジ、キャラクター付けが、ラノベっぽいんですよね。
といっても、萌え系のハーレムものだったり俺TUEEE系というようなことではなくて、どちらかというと古き良き少女小説やジュヴナイル小説の匂いが残っているような感じかもしれません。

とはいえ、萌え的なものを目指して書かれたわけではないから、そこに萌えが認められないかというと、それとこれとは全くの別問題ですよね。
本作、そういう目で読めば、シャーリーとジョーとの関係のライト百合的なものを楽しむことができますし、レストレード警部もホームズの兄のマイクロフトもモリアーティ教授も女性化されているので、妄想を広げようと思えば、そこも可能でしょう。
更に言ってしまえば、シャーリーもジョーも既に成人している20代後半の女性なのですが、ノリにどこか学生的なものが感じられたりもするのは、これもまた、ラノベ的なところでしょうか。

 シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱
 (2016/12/20)
 高殿 円
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「泣くなブタカン! ~池谷美咲の演劇部日誌~」

 2017-02-25
今週紹介する、青柳碧人の『泣くなブタカン! ~池谷美咲の演劇部日誌~』は、シリーズ3冊目にして最終巻。
非常にざっくりと内容を説明するならば、前2作品で強烈な個性を放っていた早乙女先輩たちが卒業し、最高学年の3年生になった主人公の演劇部生活を描く内容となっています。

ちなみに今回は、帯にも背表紙のあらすじ紹介にも「青春ミステリ」の文字がありませんでした。
全4章のそれぞれが軽く謎解きの形式にはなっていて、一応「日常の謎」系と言えなくもないかな、という感じではあるものの……
作中に読者に必要十分なヒントを与えて、真相を独自に推理することを可能にしておくというミステリーの文法から考えると、これをミステリーだと言うのはさすがにちょっとアレかなという判断がなされたのかも。

とはいえ、そのことと本作が面白いか面白くないかということの間には特に関連性はありません。
青春部活モノとしてはきっちりと楽しませてくれましたし、個人的にはもともと第1作目からこれをミステリーと称することには疑問を持っていたというのもあって、その辺は、まぁそうなるよね、という感じです。

ストーリーを読者に楽しませる、という点ではしっかりしている本作。
私が今回一番評価したいのは、高校生活と部活道との結末を、よくあるような美辞麗句的なものに終わらせず(そういう作品は、それはそれで好きなのですけれど)、そこに一定のリアリティーを持ち込んできたことです。
具体的に書くのはネタバレにもなるので本来は避けるべきではありますが、そこを敢えてちょっと触れるとするならば、例えば大学受験と部活動のどちらを優先すべきかとか、高校卒業後も演劇を続けようとする人間がどれくらいいるのかとか、そういった話。

もともと出だしからして、いくら高校演劇とはいえ、経験の全く無かった人間が突然舞台監督なんて重要な仕事をこなせるものだろうか、というリアリティー欠如に関する疑問を内包して始まっているシリーズでしたけれども、それも、このラストで差引プラスになった、かな?

 泣くなブタカン!
 ~池谷美咲の演劇部日誌~

 (2016/11/28)
 青柳 碧人
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